時事図解

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築地移転問題について、山田俊浩記者と意見交換をしてまいりました。

8月15日。サンケイビズの高論卓説という記事に、豊洲市場用地を築地8丁目にしたらどうかという記事が掲載されました。

 

www.sankeibiz.jp

 

8月19日金曜日に東洋経済新報社のメールフォームに問い合わせを行い、21日月曜日にご回答をいただきました。その節はありがとうございました。

 

その後、話を伺いたいというお申し出がありまして、東洋経済新報社にて当該記事の執筆者である山田俊浩記者とお話ししてまいりました。

 

その場で申し上げたことは、記事中にあった虎ノ門や新木場の地名変更と、豊洲を築地に変更する件では、全然ケースが違うというということ。そもそも市場の両立については制度や国の方針そのものが、築地と豊洲の両立を許容できる内容ではなく、「制度上無理であること」をまず指摘すべきだという2点をお伝えしてきました。

 

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面談用に急遽作ったので雑な図ですいません。

 

山田記者は、「自分も名古屋で、古い地名を復活させる運動を取材したことがある。郵便事業の都合で古い地名を廃止し簡素化してしまったが、地名にはその地域の歴史があり、人々の愛着もある。大切にしなくてはならないと知っていたはずなのに軽率な文章になってしまった。自分の意図としては、市場の両立は無理なので、知事に再考を促すつもりの記事であった」というお話でした。

 

山田記者が執筆した時点では、豊洲問題に対する知識は報道レベルのものでしかなく、風評被害についても認識が甘かったことを認めて反省しておられました。(例えば、浦安系の仲卸事業者の話も知らなかった)。他社に掲載した記事ゆえになかなか対応が難しいが、東洋経済としては以前より豊洲の問題を取材しており、今後も注視していくとのこと。ぜひ新しい記事で挽回していただきたく存じます。

 

今回の記事については、確かに山田記者の取材不足、あるいは急いで執筆した感じが文中から伺えました。特に入稿がお盆前ということもあり、報道内部でもチェックが甘かったこともあるかもしれません。その点、報道としては問題があったと思います。

 

しかし、誠意をもって批判に対応していただいたこと、対話に時間を割いてくれたことは報道者として正しい姿勢です。ご対応感謝します。

 

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私はどこまでいっても第三者ですので、このような問題のある報道には積極的に問いかけをしていければなと考えています。

~Another choice~ 江東区 高橋めぐみ氏(後編)

 前編はこちら

子育ての問題について

――女性の話に戻りますが、東京都は意外と子育てし辛いってよく聞きます。

 私、ちょっとだけ高松にいたんですね。私はそっちのほうが苦しかったですね。自分がもともと住んでないところだから、人間関係が少ないからかもしれないんですけど。子育てするような場所は空いているし、どこ行っても待ち時間もないのでそういう意味では良いんですが、何か人が希薄な感じがして、自分はね、 寂しかった。親戚も誰もいないような町で子育てするのは辛いので、そういう人たちの気持ちも分かるからそういうことを主に(区議会の場で)やっていましたね。

 

――僕が親の都合で、埼玉生まれなんですけど2年生の終わりの時に福島の川俣というところに引っ越したんですが、やはり子供心に辛かったですよ。

 辛いですよね。話す人もいないし。

 

――言葉がまず違うんですよ。

まさにそれですね。

 

――じゃんけん一つできないんですよ。東京なら「じゃんけんぽん」なんですが、あっちほうだと「じっけった」なんですよ。

 「じっけった」って聞いたことがある。そっちのほうなんですね。「ちっけった」だっけかな私のほうは。

 

――それと「そうだよね」というのを方言で「んだべ」というんですけど、この発音が違うらしいんです。 「ん」の発音が違うらしいんだけど、僕には何が違うかが分からない。

 「んだべ」

 

――お前は訛ってはいけない、変だって言われて。

 似非みたいになっちゃって。

 

――そうなのかって、だからやっぱり疎外感感じますよね。

 やはり感じましたね。自分がいけないかもしれないんですけどね、入り込んで仲良くなったと思ったら(物を)売りつけられるみたいな。なんだよ、それかよーみたいな。けっこう辛い思いを。

 

――逆に東京は地方から出てきた方々、夫婦二人で親戚もいない、子供と二人きりになっちゃうような方々がたくさんいらっしゃいます。

 だから本当に数少ないかもしれないですけど、そういう人たち向けて(区議会での政策)はやってましたね。家族もいない親戚もいない、核家族になってしまって、しかもお父さんも忙しくて独りぼっちで寂しくしているママたちを救う、児童虐待をこの町では一人も作りたくないっていうのが自分の中であって。児童虐待ってけっきょくママやパパが大都市の中で孤独になって、制止できなくて、苦しい思いをしてしまうからたぶんそっちに行ってしまうんだと思うから、ママを責めるんじゃなくてその環境を改善していく。そういうことはやっぱり自治体と思って。

 

――江東区は割と若い人が多く住んでいる印象がありますが。

はい、その通りです。 江東区ぐらいですね子供が増えてるのは。それぐらい。だからこそ保育園を作ってる。

 

――やっぱりそういうお話があって、実際に活動してる高橋さんの話をもっとあの都議選の時、みんな聞いた上で判断してたのかなっていうのが僕はちょっと気になりますね。

全然わかんないですよね。 なんだろう。国の方でもそうですけど、どうしても党のほうでやるんで、党が良ければそっちに流されるし、人を見てないのかな。でも自分としては、今回の選挙こんだけ逆風だったのに、新人で知名度も全然なかったのに、21,000票もいただいたんです。こんなに応援してくださった方がいるんだったら次も頑張んなきゃっていいう気持ちいます。この4年間は頑張ろうかなって思って。

 

――議員ではなくとも、色々やられることとは思いますが。

 実際にさっきも電話かかってきたんですけど、そういったアポとかで江東区とか繋げたり、いま議員じゃないですけど区のほうも私のこと分かってくれているので、気軽な窓口にもなっています。他のネットワークがあれば繋げたりとか、まとめたりもできるので、できることが逆に広がったところもあるかなと。時間もある程度できたので勉強していきたい。

 

 ――僕がこうやって気軽に話を聞きにこれたのも、ある意味議員じゃなかったっていうのもあるかと。

 いやいや、もちろん議員でも受けさせていただきますよ。

 

――江東区にお住まいの方で若いお母さんが何か困ってるなら、今がチャンスですね。

 ほんとね、むしろ御用聞きじゃないですけど、そういう皆さんの一つ一つのお話を聞いてね、「あ、だったらこういうことすれば良いんじゃない」ってアドバイスできると思うので。例えば、こうした区のシステムもあるから使ったらって。もしそういうのがあれば全然、何かあればお気軽に。事務所ありますから。

 

――そこらへんもっと気軽になって欲しいなと思うんですよ。

 そうですね。どうしても人の紹介とかじゃないとダメだと思ってる方も結構いらっしゃるんです。すぐメールとかでも対応してやってますんで。

 

――だからこそもっと積極的に自分でメディアを持って発生して欲しいなと思いますね。声かけやすいじゃないですか。あまり良くない言い方になりますが、政治家の方ってある種のタレントなので、「あ、〇〇だ、ちょっと声かけてみよう」ってくらいになった方が良いのかなと。

まあ、そうですね。そうなっていただければ。よろこんで。

 

――今、江東区の保育園の状況はどうなんですか? やっぱりまだ足りないですか?

 全然、足りないですね。 でも作っても「あ、じゃあ」って言って本当は預けなくてもいい方も預けちゃったりもするので。需要を掘り起こしてしまうっていう側面も実はある。年間1000人ずつの定員増をはかかっているんですよ。それでも、1万人近くの方が転入されているので。

 

――そんなに来るんですね!

 そうなんですよ、江東区だけなんですよ。

 

――まあ(若い世帯が)住むんだったらこのあたりでしょうね、東京で。

 ちょうどいいんでしょうね。子育てにも優しいっていう、やっぱりそういうイメージが江東区にはものすごくあるみたいで。

 

――ありますね。僕、実はですね、ネットのほうで最初に話題にしたのは保育園を作るなっていう話があったじゃないですか、あのときに政治に興味をもってこういうこと始めたんですね。

 杉並ですか。

 

――そう、杉並。行ってきました。ただ反対している方が特定の個人をあいつは〇〇だとか悪口ばっかり言っていていい加減嫌になっちゃったんですけど。

 そうなんですか。

 

豊洲のことについて

――そうこうやっているうちに僕のほうは豊洲のほうが気になって。ちょっと書いたら豊洲をずっと見ている人が声かけてくれて、生田さんの講演に行って、生田さんのお話を聞いて、江東区の子供たちが不安がっているっていう話で。これはもう、大人として。

 今回ダメだったことで悔しかったのはそこですね。豊洲が一番大事な時に、江東区の代表として本当に皆さんの気持ちが分かっている代表者として入れなかったことが一番悔しい。たぶん誰よりも豊洲の皆さんの声を聴いたと思うんですよ。

 

――そうですよね。今回、高橋さんが一番あっちのほうにいらっしゃって、お話ししたと思います。

 ただ現実的に築地再整備は不可能だと思っているんですよ、私は。期待も入ってますが、どっかで断念すると思うんですよ。じゃなきゃとんでもない、売却しなきゃ無理ですよ。最初の原案に戻るっていうことを都のほうでも言ってますけど、千客万来施設も作ってもらって進めてもらいたいと思って。江東区としても東京都との約束があったわけだから、それはちょっと許せないじゃないですか。非常に無責任。都議会の一員になれなかったこと、中で発言することがなかったのがすごく悔しいですね。

 

――外野ですが、江東区の方の気持ちを届けてほしいと思いますね。 

候補者の人柄を伝えるということ

バタバタしちゃって大してお話しできなくて申し訳ないなと。大丈夫ですか? 私すごい怖いんですけど。

 

――こういう風に議員の方の素のキャラクターを知っていただきたいなと思います。あと個人的には自民党の方にはお世話になってしまったので。僕は豊洲の市場の中に入ってしまいましたから。

 ああ、そうなんですか。

 

――ええ、都議団の視察のときに。都議団にはお世話になって。その節はありがとうございました。

 いえいえ。とんでもないです。

 

――その時に感じたのですが、ある意味自民党の方は、古いステレオタイプの政治家なんだなと。歩き方にしろ、喋り方にしろ。

 若い人もですか。

 

――若い人は多少違いますが。

 ザ・政治家っていう人もいますね。

 

――例えば、二回も名前を挙げて申し訳ありませんが高木さん。いかにも政治家って顔しているじゃないですか。

 そうですか? あの人実はそんなにねえ…。

 

――って、みんな言うじゃないですか。

 あ、知らないんですね。もったいないですね。

 

――普通にサシで話して、砕けた所もあると分かればいいなと。高木さんはたしか捨て猫の活動をやってらっしゃいましたよね。

 そうなんですよ。心優しい方なんですよ。もったいないですよね。本人気が付かないんですよ。今度言っておきますよ。私ね、前に千代田区の中村あやさんや何人か集まった時、私があやちゃん撮ったのにけいさんが映り込んできてこっちににこっと笑ったり、そしたらすごい可愛くて、これアップしたら好感度あがるんじゃないのって。あのお茶目さが分かれば。

 

――今回、北区のほうは割と見ていたんですが、音喜多議員がトップ当選でした、あれは音喜多さんのメディア戦略の勝ちだと思います。

 発信力すごいですよね。

 

――2位と3位は共産と公明の方で、もともと地盤があります。でも音喜多さんに行った票はいわゆる浮動票です。それが高木議員に行けば勝てた可能性がある。

 そうです。まさに。

 

――人柄とか、実績とかそういうので劣っている方ではないと思います。なのに浮動票が取れないで負けちゃってる。本当にそれが正しい評価だったら良いんですがホントなのかなと。ちなみに僕のインタビューの最終目的は高木さんなんです。

 明日にでもアポ取れちゃいますよ。高木さん、ぜんぜん、お気軽にやってくれるんじゃないかと。

 

――一応幹事長やった方ですし。それに北区っていうのは今回の都議選の象徴の一つだと思うんですよね。

 ショックでしたもん。高木さんは絶対に受かると思ってましたから。実績もあるし、ほんと頭のいい方だから。あそこ(北区は)だって衆議院選出られないじゃないですか、本来だったら国政でもやれる方で、当然お話がガンガンできる方なのでもったいないなと。

 

――もちろん、これは北区の方々の選択なのでそれを外野がとやかく言うのはおかしいですが。ただそれは別としても北区の方があの(出馬した方々の)キャラクターを見て、それで選んだら違った結果になった可能性がある。別に自民が良いよと言いたいわけではなくて、もっと個々人のキャラクターを見て、この方だったら任せられるって方に投票できるようになれば良いかなと思います。

 自分の場合、キャラクターというかどっちかっていうとすぐ笑いとか取ろうとしちゃうタイプなんですよ。

 

――ええ、ブログみて思ったのは、これは気のいいオカンだなと(笑)

 私も言われましたもん、区議仲間に私がブログ毎日やってたら「かあちゃんのブログじゃねえか」「そうだよ」って。

 

――かあちゃんのブログですね。それだからぜひとも議員をやってほしい方もいらっしゃると思うんですよ。

 共感しないとなかなかね。人間こう。

 

――特に子育て中のお母さん。子育ては終わったかもしれないけど、大変だったから次の世代にはもっと楽をしてほしいと思っている主婦の方とか。あとはもちろん男だって子育てに参加できないっていうことを後悔している方もいらっしゃると思うんですよね。だからこそ出来れば男にも育児に参加できる仕組みにしてほしいって人もいると思います。

 そこはほんと大事ですね。最近、なんかだんだん自分が母とか言っちゃうと申し訳ないぐらいお母さんよりお父さんが頑張っている方もすごくいらっしゃるので。お母さんが病気だったりして、むしろパパがすごくやったりするのを見ていると、あんまり自分が「母、母」というのが申し訳ないなかなと。だから次回あんまり母って言わないほうが良いかなって思っちゃったんですよね。どうですかね。

 

――それはどんどん言ってほしいですね。

 母の視点というのは大事なんですけど、そればっかりはどうかなっていう一瞬迷いがあったんですけど。

 

――「この政策だったらこの方」っていうのが分かりやすい方が選びやすいのかなと思います。どんなスポーツでもそうじゃないですか。全体的なオールラウンダーよりも野球だったら打てるとか、肩が強いとか、そういう方のほうが選びやすいと思いますね。けっきょく都議会だって、チームなわけじゃないですか。

 そうですね。特化してれば専門的なことが言えますから。

 

――この件だったらこの人に任せておこう、この人に発言させたいって方を議会に送り込めるのが選挙の良いところじゃないかなと。

 今回、自民党の女性が6人しかいない中で、候補者6人で、しかもママが私しかいない、あとは皆さん独身なんで。あの自民党の中でそういった福祉的なことなども補えるのは自分かなって思っていて、その役割を果たしたかったですね。

 

――ちょっとそのイメージがなかったですね。自民党って言うのはそのやっぱり長い歴史がありますからその男の政党かなと。どっちかとそういうのを担ってきたのは野党側かなと思います。

 そうですよね、でも今回自民党が第一党じゃないから、実現力がどこまでできる分からないですけど、自分としては自民党ってまず国があって、市区町村とのつながりもありますし、色んなことが実現可能なのが自民党だと私は思ってます。なので、やっぱり自民党の中で、そういった今までない役割ができると思って今回手を挙げたんですよね、都議会。

 

――なので、このインタビューがネットに上がったら、この人に入れときゃ良かったかなっていう人がもしかしたら出てくるかもしれません。

 一人でも要れば喜んで。逆にこんなんだったのかよって減っちゃったらどうしよう。大丈夫ですか?

 

――大丈夫ですよ。それは。

 ほんと普通のおばちゃんなんですよ。だから。今からこれ(パンフ)もね、優しいお母さんっていうイメージで(撮った)。だけど周りから会った時のほうが活動的で逆にもったいないって言われました。「会ったほうがおもしろいのにあんたもったいないな」って。そういうもんなんだって。

 

――もったいないと思います。色々さっきから言ってますけど、中継でお見せしたいですね。印象が全然違う。

そうですか。映像だとかしこまっちゃうところしか見られませんからね。(実物を)知ったら逆にがっかりする人もいるかもしれせんし難しいところかもしれませんが。

 

――それが「この人なら信頼できる」につながると思うので。

 うれしいですね。多くの人に会いたいですね。

 

――ぜひとも情報発信をこれからも。どうですか、自分の喋ってる姿をネットにアップするとか。

 やりますやります。発信するものがあれば。

 

――それは毎回作るべきことじゃないかなと思いますけど。できれば週一で番組やってもらうのがベストかなと思います。

 見る人いますかね。

 

――いますよ。自分の興味ある事とか毎回、作って。それこそ生田さんの報道特注なんかは人気が出ているわけじゃないですか。そうじゃなくても週一で毎回毎回テーマ決めて話し合って、生放送だと例えば、コメントがくるわけで、それに答えていくだけでも番組になりますし。

 思ってるんですけどね。

 

――割と簡単ですよ。生放送だけでしたらWEBカメラがあってあとはしゃべることがあれば。選挙のときだけ「よろしくお願いします、よろしくお願いします」ではその人の人柄を伝えるのは難しいかなと思います。

 選挙の時以外できないじゃないですか、やっちゃいけないじゃないですか。よろしくお願いしますも言えないし、名前を連呼ってのもできないし。そうするとやっぱりネットなんですね。

 

――こんなに面白い人なのに。アルコール入れたらもっと面白くなるのに。

 惜しい!

 

――となるので、そういうことやっていただきたいなというのが一市民としての気持ちですかね。

 ありがとうございます。

 

――いえ、こちらこそ今日は本当にありがとうございました。

 

なお、この取材に使用した音声はyoutubeにアップロードしております。

youtu.be

 

ファクトチェック他にご利用ください。

 

~Another choice~ 江東区 高橋めぐみ氏(前編)

序文 この企画に先駆けて

2017年の東京都議会選挙は小池知事率いる「都民ファーストの会」の圧勝だった。その背景には都民ファーストを率いていた小池陣営の巧妙な選挙運営があったのは間違いない。一方で、今現在になってなお「都民ファーストの会」がどのような政治を志しているのは見えてこない。情報公開を第一に掲げている政治陣営が取材制限を今なお徹底しているのは矛盾以外の何物でもない。

選挙では大勝した「都民ファーストの会」だが、その勢いがこのまま続くとは当の「都民ファーストの会」自身でさえ考えていないはずだ。都議選での圧勝は百点満点の出来と言ってよく、山の頂に達してしまえばあとは下るしかない。

何といっても選挙の結果ではあるので、これ以上は言わない。その結果には十分敬意を払うが、しかし、一方で負けた陣営にも耳を傾けることもまた民主主義ではないだろうか。

もし、あの都議選で都民が別の選択をしていたらどうだったのか。それを取材し記録しておくことには意味があるのではないだろうか。

今回からはしばらく「~Another choice~」と題し、都議選に落選した方々のインタビューを行っていきたいと思う。

 

なお、都議選の結果からインタビュー対象は自然と自民党関係者が多くなるが、筆者としてはなるべく多くの政党に取材したいと考えている。この人の意見を聞いてみたいという方がいたらぜひ筆者までご連絡をいただければ有難い。

 

今回は、江東区から出馬した高橋めぐみ氏に取材した。

豊洲移転問題がご縁でいちどお目にかかったことがあり、快く取材を引き受けていただくことができた。

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高橋めぐみ氏 略歴

 江東区亀戸出身。元衆議院議員木村勉氏を父に持つ。結婚・出産後、産後うつを経験し、それがきっかけで政治を志す。平成19年江東区区議会に立候補し当選。3期目の任期中に辞職し東京都議会選挙に立候補。約21000票を獲得するが落選。

 亀戸の事務所にて

――ブログ読ませていただきました。 とりあえず直近2年分と最初の一年を。

そんなに読んだんですか。えー、恥ずかしい。もう全部消そうかと思うぐらい恥ずかしい。昔のやつ読むと恥ずかしくてしょうがないです。

 

――こういう言い方が正しいのかどうか分かりませんが、最初のころは「女性として頑張る」みたいな、よくありがち内容だったんですよね。それが議員として活動していくうちに徐々に変わっていく。

 だから余計に恥ずかしいんですよ。「今、全然違うこと思ってるのにな」ということも言っちゃってるので。(将来)いろいろ切り取られることになったら、「あの時ああ言っただろ」って言われるようなことも残しちゃってるんです。それも自分の成長の過程ということで、許していただければと思って、今も残しています。

 

当選していたら一番やりたかったこと

——さて、今回はちょっと残念な結果でしたが、もしも都議になった時、一番やりたいことからまず伺いたいです。

 優先順位的にはどうかわかりませんが、私の場合、自分がママだったころの苦しい経験から議員を始めました。そういう思い出を忘れちゃいけない、こういった思いをするママたちを一人でも多く救いたいっていう気持ちで区議になりました。おかげさまで区議のなかでは自分がやりたかったことが大体できてしまったんです。じゃあもう、次は出来なかった待機児童問題だと思いました。

 

――都議選ではあまり大きく取り上げられませんでしたが、東京都での喫緊の問題ですよね。

待機児童のことは江東区でもやっていたんですが、それでも追いつかない。これはやっぱり国と都だなと思いました。私が一番感じたのは、たとえば「自分のところを保育園に使ってもいいよ」みたいな方がいたとしても、建築の用途変更ができなくて。建築基準に引っかからない建物って言うのがネックになって厳しいんです。(※補足 現在、既存の建物を保育園等に用途変更する場合、建物全体が建築基準法に適法である証明が求められるがこのような建物は少ない。)

東京都が、時限的な措置で良いので変更してもらって(保育園を増やす措置を)やってもらえば少しは変わるんじゃないかなっていう考えがあって。少しでも保育園を増やしていくことをしなきゃいけない。

 

――高橋さんとしては一番にやりたいことは保育園の問題ですか。

保育園、そう、子育ての問題ですね。子育てしやすい東京にして、今更遅いかもしれないんですけど、やっぱり出生率を上げたいですよね。10年遅かったなと思うんですね、本当は。これを団塊の世代ジュニアたちが産むっていう時にもっと良い政策してればだいぶ変わったのかなと思うんですけど。

 

――僕は氷河期世代の一つ下なので、この年代の方がもう少しフォローされたら良いなと思ってますね。

「保育園作れ、作れ」って言ってると思われたら嫌なんですけど、本当は違うんですよ。子供が小さいうちは、自分が育てた方が親にとっても良いし、子供にとっても良いとは思っているんです。三歳児神話を信じているわけじゃないんですが、あの限られた時期、話せない、喋れないというあの子たちと向き合ってやることで、親って成長していくので子供のためだけではない。自分も実際苦しかったんですけど、あれが自分を成長させてくれた。だからあの時期、子供を見られないのはもったいないなって思うんですよ。

ただ今それが出来ない状況、働かざるを得ない状況の方が今進んでしまっているのであれば、だったら保育園を増やすしかない。ニーズがあるわけだからそれは埋めていかないと上手くいかないし、女性が輝く社会って言って仕事を続けることを前提として働いてくださいと、国がそういう風な方向であれば、そうやってやるのは仕方ない、保育園は作らなくてはいけないという考えでいます。 

東京都政のあり方について

実は私、都議会議員不要論者で東京都っていうガヴァナンスはもっとシンプルにして、区に色々移譲する、移管するということをして良いっていう考えなんです。

 ただ広域的にやることとそうでないことってあるので、そこはしっかり精査する。例えば児童相談所なんかは今まで東京都がやってたのを今度は区にやるみたいな話になっているけど、区内に1個あるのはそれはそれで良いんですけど、たとえば江東墨田江戸川などの城東5ブロックくらいのエリアに大きな奴が1つあって、それから支店的な感じでやるのが一番いいなって。1個1個の区にしてしまうと、それはそれで循環しないというかいろんな差ができてしまうって事もあるので。そういうことをもっと丁寧にやりたい。

 東京都議会のほうに入れば、自分は区で10年間やった経験があるので「これは無駄じゃないか」っていうのをもっともっとできたんじゃないかっていうのがあります。最初から東京都議会にいたらなかなか分からない。それこそ1個1個提言していきたかったですね。

 実はそっちの方が一番やりたかったことなんですよ。東京都ってあんだけ大きな必要があるのかな、もっとシンプルにして都議会議員なんていらないから、もっと区にお金も権限も移した方が良い。区長会だの議長会だの副区長会でも良いんですが、そういった人たちがお互いに意見を言い合って、23区のゴミの清掃のあれみたいな感じでも良いと思うんですけど。

 区議時代の活動について

――区議でできることは大体できたと仰っていましたが、具体的にどのような政策をやったのかについて伺っていいですか?

 自分がやっぱり苦しかった産後うつに関しては、産後のケアってことでケアセンター的なことですね、助産院で宿泊ができるシステムを設置したりとか、産後で疲れているお母さんと子供を預かって休ませるみたいな施設を作ったり。そうですね、基本的に自分がやりたい産後系のやつはみんな…(といっておもむろに事務所を探し回る高橋氏)

 産後と保育…今日、新聞持ってくれば良かった、(事務所内を探しまわる)自分がやった…待ってください…色々…一瞬、すぐ戻ってきます…2分のところなので。

 

(高橋氏、約5分、不在したのち帰還)申し訳ございません。

 

――いえいえ、むしろこういう生活感のあるアクシデントが面白いんですよ。普通のインタビューだとこういうのは絶対に端折られるじゃないですか。だけど僕の場合はこれぜんぶ(ネットに)上げられますから。

 えー、ほんとですか?

 

――もちろん、ダメって言ったところはカットしますけど。

 

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これが私の実現したものなんで、 一応ね。(と言ってパンフレットを差し出す)議員の人って「これは自分がやりました、あれは私がやりました」って言うじゃないですか。他の人たちだって質疑をされてることもあるだろうし、自分だけじゃできない。だからあまり言わないようにしてるんですが。今回は分かりやすいようにやったほうが良いということで(パンフレットを)作りました。

これは私が言ったからできたのもあるんですけど、もしかたしたら違う方も言ってることもあるかもしれません。(自身の提言は)これだけじゃなくて「女性の視点」じゃないパターンもあるのですか、そういうのは一切載せてないんですよ。それ入れちゃうと全然違うことになっちゃうので。とりあえず。これがやったことですね。

 

――こうして拝見させていただくと、訴えているのは女性が子供を産んで育ててさらに社会でも働いていくというお話ですね。女性からはすごく支持が集まりそうな感じがするんですけども。

 今回は浮動票が入る状況ではなかったので、厳しかったのかなぁ。普通だったら多分、もっと理解していただける感じだったのかなと思いますね。

 

――僕がこのインタビューをしているのは、そこが気になったからなんですね。江東区で受かった方々はもちろん立派な方々だったと思うのですが、もし当選した方たちの言動が「ん?ちょっとおかしいな」って思った時に、高橋さんが「女性の立場に立ってこれだけのことをやってきて、都議になってこれだけのことやりたかったんだ」っていうの知っておけば、例えば次の選挙の時はこの人の話を一回聞いてみようっていう気持ちになれるんじゃないかなと。

 今回は逆風だったんですけども、たとえば私が街で演説していると、私のことを知らない人も来て聞いてくれて。「良かったです、絶対入れますから」っていう女性の方もいました。話を聞いてくれればすごく共感してくれるんですけど、 日数もなければ機会も少ないし、いくら私が演説会をやりますといっても、そこにわざわざ来る方ってなかなかいない。とにかく辻立ちをするとかして、地道にやるしかなかったですね。討論会とかもっとそういった場で自分のキャラクターとか出せればもっと良かったんだけど、決められた話ばかりですのでそういう意味では…。

政治家のネット活動について

 ――政治家の方全般に対して不思議だなと思ってるんですけども、これだけインターネットが普及して自分で動画を配信できる状況なのになんでみんなやないですかね。

 自信がないからじゃないですかね。いろいろ突っ込まれて反論するのもまた大変だし。「あのとき言ったじゃないか」って残るのもきっと怖いのかもしれません 。

 

――嫌なものですかね。

 でも、自分がやりたいと思って、議会に行ってそれできなかったらできなかったで、私はねそれを受け止めなきゃいけないことだし、言っただけで終わっちゃうかもしれませんけど、でもそれも一つアクション起こしているわけですから、私は言ってもいいと思いますよ。

 

――報道特注みたいに飲みながらやるのも好評みたいですし。それはなくても今回の都議選だと川松さんが自分で動画をアップして政策を説明していました。あれはよくまとまっていて良かったと思います。youtubeに上げておけばQRコード一つで、これ見てくださいねって言えますし。そうするとその人のキャラクターとかわかるしすごくいいと思うんですけども。

私は動画やったんですけどね。facebookの方から。あと、twitterからも見られるようにしたんですけど、 あんまり長いと見てくれないかなって、1日1分半とかそれぐらいの長さでテーマ決めて話をしたんですけどね。

 

――有本香さんというジャーナリストの方の本の中で、 今回、激戦区だった北区の高木けいさんに対して「3つのFだよ」と仰っていたんですね。とにかく定期的に毎日毎日情報を出せ、 そういうのがあれば全然違うんだと。高橋さんの場合だと、ブログ。昔は毎日やってらした。

 毎日やってました。

 

――「見てくれない~」とか「コメント入れてよね」とか、大変に共感できました。辛い気持ちはよくわかるんですけど、僕みたいに興味持った人間が振り返ってみてどう高橋さんがどういう風にその議員として変わっていったのかなっていうのがすごく分かりやすい。だから信頼感が持てる。

 経験がその日にあったことを書いてますからね。あの時は毎日ってやってたんですけどね、もう毎日やるのはどうしようかなって思って、思い切ってやめたんですよ。

 

――もう、すごく良くわかります。その気持ち。

 けどやっぱりダメなんですよね。何かを発信している方が良かったなって自分では。自分の一つの記録、成長記録にもなる。

 

――あとやっぱり家族のこと結構書いてらっしゃるが印象的で。

 書いてましたね。

 

――今でも書いていらっしゃる。

 今でも書いてましたけど、特に書いてましたね。 あの頃は。あまり意識しないで思ったことを書いてたので、はちゃめちゃだってよく怒られたけどしたんですけど。 

障害者福祉について

――今日は娘さんの話を見て、障害児の話から入るのかなと思ってたんですよ。そういう活動に注力されているのかなって。

 障害児政策は、東京都よりは本当は国で根本的にやってもらいたい話なんで、それはそれで違うアクションを起こしたいと思っているんです。自分が四年間空きますし、やりたいことがいくつかある。そのうちの一つが自分も議会で言ったんですけど、障害者の人達の賃金というか工賃って安いんですよね。どうしても預け先みたいな感じになってます。

 

――実は僕、ひと月くらいそういうところで働いたことがあって。家族の方からは凄くの感謝されるんですよ、「うちの子を働かせてくれてありがとう」って。ただやっぱりその障害者の方が自立するって意味ではちょっと足りないですよね。

 でしょう。それはね、マッチングもあるなと思って。障害の方は、実はこういうことはすごく長けてるってあるじゃないですか。例えば、うちの娘なんかはやすり掛けをやらせたら休みも取らずにずっと無心でやるんですよ。

 

――その気持ち分かりますね。僕も何かを平らにする作業が大好きなんですよ。

 だからそういうのがあれば良いのにって。それぞれあると思うんですよね。それを一個ぐらい前の議会で言ったのかな。でもエリアによっては難しいわけですよ。江東区とかだけだとなかなかないかもしれないけども、ある程度の大きさなら「じゃあこの地域はこういうのあるよ」という形にできないかなって。その人に合う仕事っていうのをマッチングさせたい。

あと、仕事も障害者が作ったから安いんじゃなくて、逆に障害者の人が一生懸命作ったから、みなさん社会貢献としてこれを例えばお中元で配るとかね、私むしろその方がステータスになると思うんですよね。

世田谷で美味しいチョコレートもらったことがあって。障害者の人たちが作ったチョコなんですけど、おしゃれだしとても美味しいんですよ。こうした品質の良いものであれば誰が作ったっていい値段で売るべきだと私は思うから、そういう意味で「障碍者が作った=安い」ではなくて、「=だからこそ価値がある」いう風な形で付加価値つけて、私は売るべきだと思うんですよね。

それを買う人は絶対にいるから。社会貢献と思って。自分が買ったことによって自分も嬉しいしい。曽根綾子さんじゃないけれど、与えられる人より与える人の方が幸せなんだから、私はそういう日本人の気持ちを育てる方が良いのではないかなと。

 

――その話が最初に来るかなと思ってたんで意外でした。

 あ、そうですか。

 

――もちろん予断を持ってはいけないなと思ってましたが、もっと大きな女性のお話しをされるので意外でした。都議ならばこう、区議だったからこう、そこに住んでる方々のリアルな生活をサポートしていく人なんだなって。むろん障害児の話をするなってわけではなく、それはそれで大事なことだと思います。

 やっぱり障害児がいることで楽しさもあれば苦しさもあるし、その気持ちがわかる。だからこそ私は色んなことやりたいって思ったんです。「障害の子がいるんだから家でその子見てなさいよ」という意見もあるかもしれないけど、だったらその気持ちは誰が国や都に言っていくのって。リアルに分かるからこそ、そばにいて、学校に行って、ママ達からの色んな意見を受けて、実際に自分も見て、その場にいるわけだから、そういうのができるのは自分しかいないんじゃないかなって思って。

 

――僕は障害者の方は普通に世の中に居るべきだと思いますね。

 そうなんですよね。どうしてもほら、隔離されたりするようなところがあるじゃないですか。そうじゃなくて、地域にいて当たり前、みんなでサポートしていこうというのをもっともっと活かしていきたいですね。

 

後編につづく

 

HACCP運用の概要について

前回のエントリーではHACCPの基本的な考え方を図解いたしました。HACCPはそれほど難しいものではないということをお示しできたかと思います。

今回は、では何故HACCPってあんなに色々決めたりすることがあるの? という話になります。

www.mhlw.go.jp

HACCPとPPの関係性の話

HACCPでは現場で実際に製造をする際に特に気をつけなければならない点をCCPと設定して特別に厳しく管理します。CCPの実際の数は製造ラインの性質によって異なりますが、忙しい現場作業の中で幾つものCCPを管理することは現実的ではありません。
CCPは食中毒のリスクを管理するものですので、当然ながら不確定要素があればあるほど増えていくことになります。反対に不確定要素の少ない状況ならば、CCPの数は減り管理を楽にすることができます。


ごく分かりやすい一例として、製造現場は可能な限り外部と遮断されていた方がいいと言うものがあります。そのためには建物の入り口などは二重扉にして風が入り込まないように、扉が常に閉じている状態の方が好ましいです。扉があっても立て付けが悪くなっていて隙間風が入る状態では意味がありません。
逆に屋台のような露店で風雨が入ってくるような状態だと、不確定要素が数えきれないくらいに発生してCCPどころではなくなります。


理屈だけで言えばこの屋台のような状態でもHACCP管理をすることは可能です。しかしとても現実的ではありません。また各国のHACCPやそれに類する衛生管理のガイドライン等では作業所の環境についてどのようなものが好ましいかについての記述がありますので第三者からHACCP認証を得るのはきわめて難しいでしょう。


このようにCCPを設定する以前に定めておく前提条件を、一般的衛生管理基準プログラム(Pre-Requisite Program)と言います。略称はPPあるいはPRPで本エントリーではPPで統一します。
ちなみのCCPではないCPは、このPPによって管理されることになります。

CCPとPPの関係について

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HACCPを運用する際に、一般的衛生管理基準プログラム(PP)がしっかりしていればCCPは最小限に済みます。逆に一般的衛生管理プログラムがずさんだとCCPで管理しなければならない範囲が広がり、現場での運営が難しくなります。

そのため実際にHACCPを始めるときは、PPを先に設計し、その後にCCPを設定することになります。この際、建物などがCCPの負担を減らせるような設計にすることでHACCP運営を容易にすることができるのです。


その意味においてはPPがCCPの範囲を決めると言っても過言ではありません。むろんその前に、危害要因分析をしっかりと行い、何が食中毒のリスクを高めるのかを理解することも重要です。

 

ある程度大きな作業所では、PPとCCPが別の部門によって管理されることもしばしばあります。これは現場オペレーターが実際の作業とCCPの管理に集中できるようにするためです。どのような形で運営されるにせよ、PPとCCPは別に設定、管理されるべきものなのです。


PPとCCPとの違いについてさらに具体的に述べておきます。
PPは仮にその対応を一時的に誤ったとしても即座に安全性の問題にはつながりません。例えば、施設の適切な場所にねずみ取りを設置して定期的に点検するオペレーションはPPに含まれます。この点検を一度忘れてしまったとしても、安全性に重大な問題が発生するとは考えにくいです。
しかしCCPは予め設定した基準を逸脱してしまったらただちに製造ラインを止めて改善措置を取らなければ食中毒のリスクが発生してしまいます。

PPの具体的な要件について簡単に

一般的衛生管理プログラム(PP)は、製造に関わることだけでなく、原材料の選別から顧客からのクレーム処理まで多岐にわたる事例を扱うことができます。そのため、国によって求める内容が微妙に異なっております。

一般的衛生管理プログラムと適正製造基準の関係について

自分でも英語の略語ばかりで少々嫌気が指しているのですがGMPという言葉があります。これは日本語では適正製造基準(Good Manufacturing Practice)といい、製造工程に関する大まかな基準です。PPの主な内容はGMPとなります。それに衛生基準やクレーム処理の仕方などをプラスαしたものが、現在適応されているPPだと考えて良いと思われます。
図解では、PPの概念を世界で最初に開発したカナダの農業食糧省のPPの定義を用い、PPの内容を簡単に紹介しました。なぜカナダのPPを用いるかといえば、カナダではPP=GMPであり、もっとも保守的な基準だからです。

以下、各項目の詳細について簡単に書き出しておきます。

・施設
建物の立地、建物の設計(照明や換気)、氷を含む水回り、廃棄物処理、手洗い場や着替え室、ランチルームなどについて
・輸送保管
入荷、保管、出荷についてについてです。原材料の購入方法について
・設備
機器の条件、メンテナンスなどについて
・個人衛生
個人の衛生、健康及び衛生教育などについて
・衛生・防除
施設の衛生管理の手順、検査の仕方、害虫駆除などについて
・回収プログラム
リコールをしなくてはいけなくなった時の手順について

 

なお、現在カナダはこの6条件に加えてアレルゲンや食品添加物についての使用法や異物混入についての対策などを規定する運用前提条件プログラム(OPRP)を含めた7つの基準でPPを管理しております。(日本で一般的なOPRPとは内容が異なります)

www.inspection.gc.ca

 

PPがしっかりしていれば、CCPに割くコストも少なくて済み、より効率的な運営が可能になるということはお分かりいただけたかと思います。

 まとめ

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この一般的衛生管理プログラム(PP)ですが、実際の検討に入れば、今まで運用してきた衛生管理方法と多くの点で一致するかと思います。

HACCPとはあくまで管理手法であり、実際の衛生管理を指定するものではありません。大切なのは、何を目的としてその衛生管理を実施するかをきちんと把握することです。したがって、よほど衛生に気を使っていない作業所でもない限り、実際の運営で大きな手順変更は起こらないでしょう。ただし、施設要件に関しては残念ながら日本ではルーズな点が多々ありますので、その点は注意が必要です。(食材を置く高さ、壁と厨房機器の距離、ドライフロア等)

また生物的リスク、主に微生物への意識が弱いことも問題です。食中毒の発生件数の9割は微生物にまつわるものであり、雪印の事件でも黄色ブドウ球菌の特徴を知らなかったことが食中毒の引き金となりました。

 

しかし全体として日本の食中毒に関する衛生水準は他国と比較しても際立って優れています。HACCP運用は、書類を揃えるなどのコストはかかりますが、そこまで大変ではないのではないかと予想しております。

たとえば2011年のアメリカでの食中毒による死者数は約3000人なのに対し、日本の死者数は11名と、人口や調査方法の違いでは説明できない差が出ています。(日本の場合2桁になることのほうが珍しい)制度設計では遅れを取っていますが、個々人の衛生意識は高いのです。

 

HACCP取得の意義の一つに欧米への輸出が可能になるという点があります。

日本の食品の安全性の高さは疑いようもなく、大きなアピールポイントとなるでしょう。その意味からも、HACCPはもっと普及されて良いと私は考えています。

HACCPの基本的な考え方

前回のエントリーでは、雪印集団食中毒事件はもしHACCPが導入されていれば起きていなかっただろうという内容を書きました。
そして今回ですが、HACCPの基本的な考え方について解説していく予定です。
まあ今回に限ったことではないのですが、私のHACCPの説明は分かりやすさを重視しており、従来の説明と順序が違ったり、細部を省略したりしております。HACCPをより理解したい場合には厚生省のHPなどでパンフレット等をぜひお読み下さい。

www.mhlw.go.jp

HACCPとは?

HACCPとは[Hazard Analysis and Critical Control Point]から頭文字を取った略称のことで、日本語では「危害要因分析必須管理点」などと訳されております。個人的にはandの部分をきちんと訳し、「危害要因分析と必須管理点」と分けて説明するほうが意味が伝わるのではないかと思っています。
HACCPとは大きく分けて二つの段階から成る手法です。

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はじめは【危害要因を分析すること】で、次に【工程内で特に大事な箇所について連続的に記録を取りながら管理すること】によってHACCPが成立します。

さっそくこれらの解説に入りたいところですが、その前に、なぜ今までの衛生管理ではなく、HACCPを新たに導入すべきなのかについて説明をしなくてはなりません。

従来の衛生管理の限界

従来の衛生管理は、安全な作業工程を作り、作業所を衛生的な状態にすれば、そこで扱われる製品も安全なものになるという考え方で行われていました。そして完成した製品の一部を抜き取って検査することで安全性を言わば「確率論的に」保証していました。

しかしこの衛生管理の方法には限界があります。生鮮品は状態が一定ではなく、また汚染物質を完全に除去することも不可能なためです。
たとえば前回取り上げた雪印の場合、扱うものが牛乳である以上どうしても黄色ブドウ球菌が混入していることは避けようがありません。さらに生鮮食品は汚染状態が一様ではなく、何かの手違いで汚染物質の量が飛び抜けて高い生鮮食品が作業工程の中に紛れ込んでしまうリスクは絶対に避けられないことなのです。
また工程内で全ての汚染物質を取り除くことも現実的ではありません。黄色ブドウ球菌は摂氏75℃で1分以上加熱すれば殺菌することが出来ますが、それでは牛乳としての風味が損なわれてしまい、食品としての価値が大きく損なわれてしまいます。これでは意味がありません。

このような状況で黄色ブドウ球菌が何かのはずみで増殖させてしまうと(前回の例では停電)、作業所をどれほど衛生的にしていても食中毒の発生を防ぐことができなくなります。
さらに抜き取り検査という安全確認の方法にも限界があります。仮に全体の中に1%に汚染があった場合、その汚染された製品が検査で発見される確率は1%しかありません。また、その検査対象にのみ汚染があったのか、それとも全体が汚染されているかもさらに検査してみないと分かりません。つまり本当に汚染物質が混じっているかどうかを確実に証明できるわけではないんどえす。

もちろん、それを補うために工程をしっかり管理し、作業所内の衛生管理をしっかりとして有害な汚染物質が混入しないように手を尽くすわけですが、どうしても見逃してしまうリスクは存在し続けてしまうのです。

HACCPで何が変わるのか。

それではHACCPの最初の工程HA(危害要因を分析すること)とは具体的にどんな作業をするのでしょうか。
HACCPでは、食品汚染のリスクを【生物的リスク】【化学的リスク】【物理的リスク】の3つに分類して考えます。

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生物的リスク

微生物、ウィルス、寄生虫など、生物学的な食品汚染のリスクです。
特に微生物やウィルスは目で見ることができず、検体から微生物を検出するまでに時間がかかるため、疫学的知識によって汚染を遮断することが重要になります。

化学的リスク

化学物質によって食中毒が引き起こされるリスクです。具体的にはフグ毒や貝毒といった生物由来の毒のほか、食品添加物のように人為的に混入させる物質のリスク、あるいは作業所で使用される洗剤が混入するリスクなども含まれます。

物理的リスク

原料に混じっている小石などがそのままの状態で食品に混入するリスクや、工場内で使用している機械から部品等が誤って混入してしまうリスクです。機械から部品が誤って混入してしまうリスクなどは避けようがないと思いがちですが、定期点検をきちんと行うことや耐用年数を超えて使用しないなど、正しい使用方法を守ることでリスクは最小限に抑えられます。

 

これらからより具体的に汚染物質を特定し、製品を作る上でどのようなリスクがあるかを分析することがHACCP実施の第一歩になります。

CPとCCPについて

危害要因の分析を終えたら、次は実際の工程でどのように管理していくかを検討します。
まずは作業工程の中で危害に影響する工程を特定します。これをCP(Control Point-管理点-)と呼びます。
さらにこのCPの中でも特に健康上、許容できない重大な危険性がある部分のことをCCP(Critical Control Point-必須管理点-)と設定します。

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CCPでは管理基準を設定し、基準を逸脱していないか連続的に状態を監視記録します。この基準は迅速にモニタリングできる温度や時間といった項目で管理します。また管理基準を逸脱した場合を想定した改善措置を予め設定しておきます。
前回、雪印の集団食中毒事件を紹介した時、脱脂乳を加温する工程がCCPになるという説明をいたしました。脱脂乳を加温し続けると黄色ブドウ球菌が増殖してしまいます。食中毒の場合この黄色ブドウ球菌から発生した毒素エンテロトキシンAが特に問題になります。
毒素エンテロトキシンAは耐熱性であり、通常の工程では発生してしまうと除去することはできません。そのため、黄色ブドウ球菌の増殖が増えてしまう工程を特に気をつけて管理する必要があり、脱脂乳を加温する工程はCCPとして設定し、加温時間や温度の管理基準(Critical Limit)を設定し、その範囲を逸脱した場合の改善措置を講じます。改善措置は具体的には製造ラインを止め、脱脂乳を安全に廃棄、機器を洗浄するなどが必要でしょう。

ちなみにその後の殺菌装置を通して黄色ブドウ球菌を殺菌する工程はCPではあってもCCPではありません。黄色ブドウ球菌を死滅させることは衛生上必要な措置ではありますが、前段階でCCPが管理されていれば毒素エンテロトキシンAの発生は許容できる範囲に収まるためです。
とくに強調しておきますが、HACCPでは汚染物質の完全除去ではなく、人体に影響のある範囲まで残存させないことを目標とします。

またこのCCPは管理状況を連続的に記録管理することが求められます。これは安全に管理されていることの証明であるため、長期的に保存しいつでも見られる状態にすることが求められます。

筆者が見た今までの衛生管理とHACCPとの違い

筆者の感想では、今までの衛生管理は周囲の環境を整えることで【リスクの変動を避ける】ことに主眼が置かれていて、リスクそのものに対しては消極的だったと思います。一方でHACCPは【リスクそのもの特定して管理する】という能動的な対応を取ります。そのため、導入当初は大変でも、作業が定着すればより高い安全性が確保できるようになるのだと思います。
勘違いしないでいただきたいのですが、HACCPは従来の衛生管理を否定するものではありません。従来の衛生管理にプラスしてより積極的に関与していく手法だということです。

HACCPの基本的な考え方についてのまとめ

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HACCPとは科学的にリスクを分析し、特に重要な点は連続することで安全を確保する方法です。CCPがしっかりと管理できていれば、汚染物質が食品中に残存している可能性は極めて低いことが科学的に証明されます。これは従来の抜き取り検査とは違い、全ての製品に対して保証が効きます。
これがHACCPが新たに求められるのかの理由となります。

次回はCPと一般的衛生管理プログラム他について説明します。

「雪印集団食中毒事件」はHACCPがあれば防げた

なぜHACCPが必要なのか

今回からHACCPについての図解に挑戦しようとしているのですが、HACCPを理解する上での一番の課題は、誰も言いませんが「用語の難しさ」にあると思います。

ほとんどの用語はHAとかCCPとかアルファベットの略字か、日本語に訳されていても【重要管理点】とかで、正直、私にはピンとこないのです。

それに加えHACCPの解説本も制度設計の解説ばかりで、具体的な実例に乏しく、一般人にはなおさら分かりにくいのではと思います。

 

そこでまずはなぜHACCPを取り入れる必要があるか、それを具体例から紹介することにして説明していきたいと思います。

なお今回は長文になりそうなので、前後編、あるいは3回にエントリーになると思います。

 雪汁集団食中毒事件のあらまし

さて、今回取り上げるのは我が国の食品衛生上の一大事件、雪印集団食中毒事件です。

あの事件でなぜ食中毒は起きてしまったのか、もし当時HACCPが取り入れられていればこの事件は防げたのかどうか、それを説明していきたいと思います。

 

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2000年6月下旬、雪印乳業大阪工場から出荷された「雪印低脂肪乳」を飲んだ子供が嘔吐や下痢の症状を訴えました。

雪印乳業は当初、事態を軽視し製品回収を渋ります。もっともすぐに食中毒を公表し製品を回収することになるのですが、この回収の遅れが原因で約一万四千人に食中毒の被害を広げてしまいました。

食品会社にとって食中毒はもっとも避けるべきものです。リスク管理の観点からも雪印は即座に行動すべきでしたが残念ながらそれが出来ませんでした。

この事件がきっかけて雪印ブランドの信用はどん底まで失墜します。全工場の操業は停止され、雪印製品は種類を問わず全国から撤去されるに至りました。

なお当時の社長、石川哲郎氏はエレベーターの前で寝ずの番で待ち構えていた記者に囲まれ、気が立っていたため「わたしは寝ていないんだよ」と発言してしまい、これがブランドイメージの崩壊の決定打となりました。有名なシーンなので記憶にある方も多いかと思います。

なぜ食中毒は起こったか。

雪印集団食中毒事件はいろいろな意味で時代の転換点として捉えられる重大な事件ですが、このエントリーでは事を食中毒だけに絞っていきます。

 

当初、食中毒の原因は大阪工場の逆流防止弁の洗浄不足が原因とされました。

しかしその後の調査によって、北海道にある大樹工場の脱脂粉乳を製造する過程ですでに汚染が発生していたことが判明しました。

 雪印乳業大樹工場での食中毒汚染原因は、脱脂粉乳の製造過程にありました。

脱脂粉乳の製造工程は、まず牛乳を20~30℃程度に温めて牛乳からクリームを分離し、その後、殺菌装置にかけた上で乾燥させ粉末状の脱脂粉乳を製造するというものです。

 ところが、食中毒汚染が発生した当日は雪の影響で工場が一時的に停電、本来は数分しか加温しないことになっていた脱脂乳(クリームを取り除いた牛乳)が4時間近く放置されてしまっていました。この時に食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌が大量発生したのです。

その後、電力が復旧し操業を再開した時、この脱脂乳について「殺菌装置にかけるのだから大丈夫だろう」という現場判断がなされ、原料を捨てずに製造を続行したため、汚染された脱脂粉乳が製造されてしまったのです。これを原料にして大阪工場は製品を製造したため、食中毒が発生したというわけです。

 なぜ殺菌装置にかけたはずの脱脂乳で汚染物質が発生してしまったのか。

なぜ殺菌装置にかけたのにも関わらず、完成した脱脂粉乳から食中毒が発生してしまったのでしょうか。

それは職員の食中毒への理解不足が原因でした。殺菌装置は加熱によって黄色ブドウ球菌を殺菌するのですが、黄色ブドウ球菌が作り出した毒素エンテロトキシンAは加熱によって破壊することができません。このエンテロトキシンAを人体が摂取することで、激しい吐き気、下痢、腹痛などの食中毒の症状が起きるのです。しかし担当職員にはこの知識がありませんでした。

 当時、製乳業は高度な衛生管理をしているというのが社会一般での認知でした。だからこそ雪印のこの事件は社会に大きなインパクトとなったのです。具体的にこの大樹工場がどの程度の衛生水準だったかまでは分かりませんが、おそらくは標準以上の衛生管理が行われていたことと思われます。それでも事件は起きてしまったのです。

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日本の衛生管理の限界

この事件は雪印という会社だから起きた特殊な事件ではありません。日本の食品衛生のあり方そのものに問題があり、それが最悪のケースとして露出したのがたまたま雪印だったと見るべきです。

もしこのとき雪印の大樹向上にHACCPが導入されていれば、ほぼ間違いなく食中毒は防げていたでしょう。

雪印は別に資金繰りに苦しくて意図的に不正をしたわけではなく衛生管理がずさんであったからでもないからです。たしかに職員の判断ミスはありましたが、そもそも現場の職員に必要以上のリスク管理を求めることが間違いです。

 雪印食中毒事件は防げたか

HACCPの詳しい解説は次回以降にいたしますが、一点だけ。

もし雪印がCCPの概念を理解して実行していたら、まちがいなくこの食中毒事件は防げたことでしょう。

CCPとは「Critical Control Point」の略称で、日本語では重要管理点と訳されます。

これは食品衛生を担保する上でもっとも重要な工程を見つけ、それを管理することなのです。

 雪印のこの事件の場合、食中毒を防ぐために黄色ブドウ球菌を増殖させないことが最重要課題でした。これを危害要因分析と言います。

そのためには生クリームを分離するための加温は必要最低限に抑えることが重要になります。なぜならいったん黄色ブドウ球菌が増殖してしまうと、発生した毒素エンテロトキシンAを取り除くことが後の工程でできないからです。

したがって加温の工程は間違いなくCCP(重要管理点)となります。

1、生クリーム分離のための加温の工程で「25±3℃の温度で、2~3分の間加熱する(数字は仮定)」といった内容を取り決め、実施内容は常に記録する。

2、それが何らかの要因で達成できなかった場合はすみやかに製造ラインを止めて、原料を廃棄、機器を洗浄する。

 といった取り決めをしておけば、この作業工程内で食中毒の原因が発生する可能性はほぼゼロにすることが可能です。そしてこれは決して難易度の高い作業はありません。

 HACCPの実施は難しくない

新しい概念だけに、HACCPは煩雑で難解な技術なのではないかという誤解があります。たしかにHACCPに面倒くさい部分があることは事実です。また、リスクの概念に生物学的知識や化学的知識が必要になることもあり、一般人だけでHACCPを導入するというのは難しい場合もあるかとは思います。

ですがHACCPのもっとも重要な点は「何が食品衛生にとって問題になるのかを分析し、それを防ぐには工程のどこを管理すればよいかを検討する」だけのことであり、当たり前のことを当たり前にやるだけ、とも表現できます。

たとえば4時間温めた牛乳が食用にするのは論外だと一般人でも分かります。

そこに科学的な裏付けをし防止策を施すのがHACCPです。けっして難しい概念ではないのです。

 

続きます。

 注記

なお今回例として採用した雪印乳業についてですが、この事件の後、徹底した衛生管理に取り組み、「雪印メグミルク株式会社」として信頼を回復し現在に至っております。

あくまで二十年近く前の雪印乳業で何が起きたのかの解説なので、その点を誤解なきようにお願い致します。

 さらに余談

ちなみに雪印乳業の大阪工場は【総合衛生管理製造過程】の認証を得ていたにも食中毒事故が発生してしまったため、この件がきっかけで【総合衛生管理製造過程】の見直しの契機となりました。

この【総合衛生管理製造過程】とは、HACCPと品質管理を合わせたような複雑な制度でして当時としては先端の品質管理制度でした。ただしとても複雑な制度であり、運営する側もきちんと理解実施するのが難しかったため、現在ではこの制度に対する評価は低いものとなっております。

そのせいかHACCPの解説本には必ず、「【総合衛生管理製造過程】とは違って難しいものではない」という断り書きが入れられるほどです。HACCP発祥の地であるアメリカでも同様の失敗があったと仄聞しますが、HACCPは安全のみを取扱い品質は別に管理するものなのだということは覚えておくべきかもしれません。

豊洲市場を売ってワクワクするらしい駒崎弘樹氏へ。反論お待ちしております

豊洲市場売却するとワクワクする日本になる?

認定NPOフローレンス代表理事駒崎弘樹さんが豊洲を売って奨学金の原資にしようという記事がありました。

news.yahoo.co.jp

ご本人も「昨今の豊洲問題のぐちゃぐちゃについては、よく分かりません。」と仰っているくらいにこの問題に興味が無いそうです。とすれば、いわゆる炎上商法というやつなのでしょうね。

 

本来まったくの無関係でありながら、半年ほどこの問題に関わっている筆者から見ても駒崎氏のこの記事は怒りが湧くものであり、移転問題の当事者の胸中は察するに余りあります。なぜ責任ある立場の人がこのような記事を上げたのか理解できません。

 

駒崎さんの論を簡単にまとめると「卸売市場というビジネスモデルが微妙になってきているので、豊洲市場を売って給付型の奨学金の原資にしよう」という主張なのですが、
まずは主だった点について反論します。

 卸売市場というビジネスモデルは壊れているか?

これは豊洲市場に否定的なITコンサルタントの永江一石氏のブログが論拠のようです。
確かに彼の指摘するように確かに卸売市場での取扱量は年々減ってきています。しかし、それを根拠にして彼の主張する卸売市場不要論が成り立つかというと、それは勉強不足としか言いようがありません。

まず彼の指摘する冷凍品の取扱の減少ですが、そもそも日本の中央卸売市場制度は生鮮食品の流通のため、大正時代に誕生したものです。劣化しやすい生鮮品を効率的に供給するための制度ですので、元より冷凍品のような長期保存が出来て供給調整のしやすい食品流通は得意としておりません。

 

冷凍品は倉庫に一定期間保存できますので、工業製品のように安定した供給調整が可能であり、物流機能さえあれば卸売市場がなくともあまり問題がありません。冷凍品の場外流通が増え続けているというのは、このような市場の性質によるものです。「卸売市場の最大のライバルはニチレイ、マルハだ」などという話はこの種の議論では通説です。

 

しかし、野菜にしろ魚にしろ、産地、価値、収穫量が安定しない生鮮品を効率よく分配するためには売りたい人と買いたい人が卸売市場で集まって取引するやり方のほうが適しています。ゆくゆくはインターネットを通じた取引も可能になるかとは思いますが、現状そこまでには至っておりません。卸売市場というビジネスモデルが壊れているというならば、では現状の生鮮食料品の流通はどうするのかを合わせて語らなければ片手落ちです。今すぐに卸売市場は無くせないのです。

 

さらに築地に限って言えば、この市場は東京都の基幹市場として設定されており、他の市場へ商品を転送する機能も期待されています。
築地には全国から水産物が扱いきれないほどの量が送られてきます。他方、地方はそれらの商品を手に入れるのが難しいため、築地から商品を転送することで他の市場が成り立っているという側面があります。
誤解を恐れずに言えば、地方で生魚が安定して買えるのは築地のおかげなのです。

なぜ豊洲があれほど巨大な市場になったのかと言えば、この転送機能を強化するためでもあり、あの市場は関東一帯の物流拠点であるわけです。
巨大な冷蔵庫が必要なのも、転送する際に生じる商品の劣化を防ぐためでもあります。ちなみに築地では野ざらしで、管理が行き届いているとは到底いい難い。もしも取扱高が減っているからという理由だけで築地あるいは豊洲を縮小するとなると、困るのは他の地方市場なのです。市場を縮小しろという主張する人はなぜかいつもこのあたりの事情を考慮に入れていないので不思議に思っています。都のHPにも載っておりますが。

 

ぜひ再考いただきたいのですが、本当に卸売市場というビジネスモデルが壊れているのでしょうか。衰退しかけているからと言って失ってしまってよいものなのでしょうか。この卸売市場に支えられているのはなにも内部の業者だけではないのです。生産者や小売業者も中小になればなるほど市場への依存は高まります。

卸売市場は社会のインフラなのです。

 

余談ですが、駒崎氏もよく知らない業界を「明るい将来があるようにも思われません」と簡単に言ってしまうのは軽薄なご発言ではないでしょうか。私がよく知らない駒崎氏を「明るい将来があるようにも思われません」と言ったら失礼ですよね。

4370億円の売却益

そもそもこの数字はでたらめです。これは市場問題プロジェクトチームの小島座長が出した私案での数字であり、公的な積算根拠はなく楽観的な数字でしかありません。この私案はひどすぎるので解説する気にもなりません。
さらに問題なのは、豊洲の土地は本来、東京ガスが自身の再開発計画を泣く泣く諦めて都に売ったという経緯がある点です。
都は公益性を盾に半ば無理やり東京ガスから豊洲の土地を買ったわけですが、それを売却するのは控えめに言って地上げ行為のようです。そんなことが許されれば、今後、東京都の都市開発に協力しようという企業は金輪際現れないという点でも売却は有りえません。都政が停滞します。

 

やや本旨とは外れますが、私は豊洲市場に入場したただ一人の一般人でして、豊洲市場がいかに丹精込めて作られているかを実際に目の当たりにしております。豊洲市場は多くの人々が苦労して作りあげたものであり、それを軽々しく売るなどと言うのはどのような理由であっても到底許容できません。

この点、なぜ駒崎氏が豊洲市場を軽んじるような発言をしたのか、詳しい説明を求めたいところです。

東京とよす奨学金について

この辺りは専門ではありませんし、仮定の話をしても意味はないと思うのですが、どうにも納得行かないので続けます。
駒崎氏はこの都民にとって大事な資産である豊洲市場の売却益を給付型の奨学金にするという案を披瀝しておられます。太っ腹ですね。所詮他人の金ですものね、という感想しか湧きません。


豊洲市場に係る資金は市場会計と言って、厳密に言えば東京都の自由にできるお金ではありません。あくまで東京にある11の市場のためのお金です。ですからそれを教育目的に使用することそれ自体がありえない話ですが、どのような根拠があってのことか、ご反論をぜひ伺いたく存じます。

 

さらには、この奨学金の給付の仕方に疑問を覚えます。
まず、対象が貧困層に限られているということです。確かに貧困層の少年少女に就学の機会を与えるのは重要なことです。しかし全都民の財産を売ったお金を一部の属性の人々のみに給付することは不平等と言わざるを得ません。そもそもその線引きは誰が決めるのですか。

 

また駒崎氏は「11年間もの間、大学や専門学校等への進学を望む、貧困層の子供たち全員に給付型奨学金を提供し、大学授業料無償化を達成できる」と仰っていますが、逆に言えばたった11年しか保たない奨学金であり、特定の年代の子供しか利益を享受できないという意味で二重に不平等です。


確かに就学機会のない貧困層の中にはきちんとした教育を受けられれば成功する子供が一定確率いると思いますが、これも裏を返せばいくらお金を与えても無駄な子供も一定数いるということでもあり、公金である以上、効果の薄い投資をするのはいかがなものと思います。

こういう政策を「考えなしのバラマキ」と言うのではないでしょうか。どのような制度設計でこのような奨学金を企画したのか、責任ある説明を求めたいと思います。

安全なところから石を投げるな

豊洲市場が運営されれば、豊洲市場を利用する水産事業者の子供や孫へ富の再分配がなされることは疑いようもありません。結果的には地方の子供たちの就学機会が高まり、たった11年のバラマキよりもメリットがあるはずです。

また豊洲市場を建てた建築関係者にも子供が居るはずで、公共事業としては、11年の無差別給付金よりも筋の通った社会投資のあり方といえるのではないでしょうか。

 

駒崎氏の主張は、公共の財産をあぶく銭に変えるという類のものであり、私には到底許容できません。冒頭でも申し上げた通り、おそらく駒崎氏は炎上目的で、よく知りもしない問題にあえて無茶なことを書いたのではないかと思います。そもそもその点が私には許容し難い。


「炎上目的で一石を投じる」という言葉は大変に聞こえが良いですが、実際のところは「炎上目的だから」という言い訳を使って、安全なところから石を投げているに過ぎません。どんなに責められても発言した側の自らの虚栄心は満足できます。これを偽善と言います。それも己一人の満足しか満たない下等な偽善です。

 

一方で失っているものがあることも自覚していただきたい。
それは駒崎氏の周囲の人々の信頼です。ご本人は確信犯的に発言をなさっているようなのでどんな報いがあっても満足でしょうが、駒崎氏の周囲にいる方々は、何もやっていなくても同類として見られます。

昨今のSNS上での学生のバイト先での振る舞いが炎上するのが好例ですが、ネット上の炎上というのは、周囲の信頼を燃料にして燃え盛るものです。

今回の発言は、駒崎氏が主催するNPOフローレンスに務める方々をはじめ、他の活動で一緒に活動している方々の信頼をも失う行為です。責任ある組織の代表としてふさわしい態度とは到底思えません。

 

たとえば私も子どもの貧困問題には関心がありますが、もし興味を持った団体に駒崎の名前があったときは関わるのはよそうと思う程度には駒崎氏を警戒することにしました。意図的な炎上に巻き込まれるのはごめんだからです。多くの人が私と同じことを考えれば、本来の目的であろう子どもの貧困の問題解決すら容易に進まなくなるでしょう。本当にそれで良いのでしょうか。

駒崎氏の反論お待ちしております

まとめといたしまして、今回の駒崎氏の記事は、築地移転問題に関わった多くの人々を傷つけ、また本来の目的であろう子どもの貧困の解決にも結びつかない大変な悪手だというのが私の意見です。

 

駒崎氏からはぜひ反論をいただきたいと思います。

もっと端的にいうならば「発言した以上逃げるなよ」ということです。