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時事図解

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えっ、公園の保育園転用はエゴじゃないの!? 図解で分かる杉並区の保育園転用問題で反対派が無視された理由(4)

そもそもどうして来年4月までに保育園が必要なのか

これについて境氏をはじめとし数多くの人々から「来年の4月という期限を緩めてもいいのではないか」という意見が出ているのを目にしました。

 

行政にはどうしても来年4月という目標を譲るわけにはいかない理由があるのですが、それを理解するためには「現代社会における保育園の重要性」と「待機児童の深刻性」を語らないわけにはまいりません。

 

まずは、この件を一番深く取材している境治氏が「保育園の必要性」についてiRONNAというサイトで記事を投稿しています。

ironna.jp

ちょっとお断りしておきます。今回の図解や解説は、私による要約がやや強めに入っています。しかし主張する内容とその論理については同様の内容なので、ぜひ当該記事もお読みになってください。

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20世紀の子育ては専業主婦が行うものだった

いきなり境氏の記事には無い言葉を使わせていただきますが、ごく大雑把にいって20世紀と21世紀では夫婦の子育てではその環境は大きく変化しております。

20世紀の夫婦の場合、男性は一つの会社に長年勤めていれば、自然と給与もあがり、家族を養うだけの稼ぎを持つことができました。いわゆる「終身雇用」の給与体系です。

そのため女性は出産を機に家庭に入り専業主婦となり、ほとんど家に居ることのできない夫の分まで子育てを一手に引き受けるのが普通でした。「男は外で仕事、女は家で家事と子育て」というのが20世紀の夫婦のあり方だったわけです。

21世紀の夫婦は共働き必須

ところが21世紀の夫婦はそれ以前の夫婦とは環境が大きく異なっています。

まず、夫の側が給与の水準が大きく引き下げられています。「終身雇用」の体制も崩れ、昇給の保証もなく、それどころか会社が倒産するリスクも20世紀とは比べ物になりません。

こんな状況では、妻の側も育児出産だからといって会社を辞めるわけにはいきません。産休の1年までなんとかなるでしょうが、その後は早く会社に復帰しないと正社員として戻れなくなってしまうのが現実です。

そして日本社会では、一度正社員という肩書が失われてしまうとそれを取り戻すのが難しいのです。かとって非正規雇用では得られる所得がずっと限られてしまいます。だから現代では女性も働き続けた方がよく、それゆえに子供を預けるための保育園は必須のインフラになるのです。

 

さらに都市部で就職し結婚した夫婦は、子供を預ける都合上、どうしても通勤時間が限られてしまい、都心にほど近い場所に住居を求めなければいけなくなります。その有力な候補地が今回問題の起きた杉並区なのです。

 

結果、杉並区では多くの子供を持つ、あるいは子供を持ちたい夫婦が集まってくるため作っても作っても保育園が足りなくなってしまうという状態で、ついに待機児童に対する緊急宣言が出されるに至りました。

久我山東原公園が保育園に転用される背後には、こうしたどうしようもない社会情勢の流れの中にあるものだったということは理解しておかなくってはなりません。 

待機児童で母親の人生が詰む

久我山東原公園の保育園転用問題が起きた時、久我山の住民の方たちはただ反対するだけでなく、行政に対案を提示しました。この態度は素晴らしいと思います。

ですが、行政の反応はすべてノー。

この点に対して反対派の住民の方は「計画ありきだ」という反応をする方が多いようです。ですが、冷静に考えてみると「行政にとって対案に出た内容はそもそも実現不可能」だということが見えてくるのです。

 

これを詳しく解説したのがNPO法人フローレンスの駒崎弘樹氏です。ご自身が小規模認可保育園を経営している観点から、この計画には公園転用しかありえないことをご自身のブログで解説しています。そこからの引用を元に、なぜ行政にとって公園転用は絶対条件になったのか」を解説したいと思います。

www.komazaki.net

 

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・対案1 代替地の確保

駒崎氏によれば、区が作ろうとしているサイズの認可保育園は600平米くらいが平均的な大きさらしいです。ですが、駒崎氏がこの規模の賃貸物件をネットの不動産サイトで検索してたところ候補はゼロだそうです。

最初、この記事を見た時「ネットの情報だけじゃなく、不動産会社に直接当たれば物件があるんじゃないか、片手落ちだな」と思ったのですが、これは私の不見識でした。

先ほど時系列で今回の問題を確認した時に覚えておいていただいた「25日縛り」を思い出していただきたいと思います。

 

区の職員は、たった25日程度で候補地の選定をしなくてはいけませんでした。実際には「待機児童緊急対策第2弾」の発表に向けての事務作業もしなければならず、行動できる日数はさらに少なくなります。20日くらいがせいぜいだったのではないでしょうか。

 

この期間で、区内の不動産屋に片っ端から電話をかけ、しらみつぶしに候補地を見て回り、土地の持ち主にかけあって保育園建設の許可をもらうという作業は可能でしょうか? それも11か所同時に。

ネットで物件が見つかるくらいに物件が余っていないなら、そもそも賃貸物件に頼った保育園建設は無理でしょう。

 

・対案2 小規模認可保育で時間稼ぎをする。

なにも公園に大きな施設を建てるのではなく。とりあえず小規模認可保育を作り、その間に用地買収やら別の区有地に保育園を建てるというアイデアもありました。これは一見実現性が高そうでネットでも一番多く目にしました。私もそれなら実現可能じゃないかと思ったものです。

ところが、小規模認可保育を運営している駒崎さんのNPOのスタッフでさえ、適した建物を見つけるのに3か月かかるそうです。これは保育園には厳しい建築基準が求められており、さらに利用者が通える場所に存在しなくてはならず、さらにさらに大家さんが保育園に対して理解を持っているという条件をクリアしなければならないからだそうで、要するに保育園は規模に関わらず作るのがそもそも大変のようです。

時間に制限のある杉並区では、一見実現性の高そうなこの案も残念ながらまったく非現実的なのです。

 

・対案3 民間所有地の取得

これは駒崎さんが指摘するまでもなく、実現の可能性は限りなく薄いですよね。土地の売買にはやはり時間がかかります。たとえうまい具合に土地を取得できたとしても、保育園建設のために前の建物の撤去する作業も必要になるでしょう。

これでは来年の4月までに待機児童をゼロにするという計画とそもそも矛盾します。

 

つまるところ、この短期間で来年4月に間に合うように用地を確保しようとしたら、「区有地かつそれなりの広さのあるところ」を使う以外に手だてはなかったのです。

ちなみに、久我山東原公園の保育園建設スケジュールは、久我山の子どもと地域を守る会のブログによれば以下の通りらしいです。

 

2016年6月中旬~8月中旬
保育施設整備に向けた準備(整地等)
2016年7月
運営事業者の決定
2016年8月下旬
保育施設建設開始
2017年1月
竣工
2017年4月
保育施設運営開始

保育園建設に取り掛かれる区有地に建てるのでさえ、このようにスケジュールが厳しめです。

通常、保育園建設には2年かかるそうですが、それを1年に足らない期間でやりとげるわけですから、この業務に従事する区の職員の労苦はおそらく想像を絶するものでしょう。

これでは住民側が出した対案をことごとく受け入れないのも当然です。最短の手順ですらこのように期間ぎりぎりなのに、それ以上に素早く保育園を建てられる対案は、おそらく存在しません。

来年の4月にこだわらなければ別の方法もあるかもしれないが

ここで反対派の「久我山の子供たちを守る会」は「来年4月の期限を緩めるだけでいろんな方策があるはずなのに」と主張します。これは「守る会」だけでなく、たとえば松浦 芳子氏もチャンネル桜の中の「なっちゃんち まゆちゃんち #75」にて同様の発言をなさっています。(リンクをクリックするとYOUTUBEに飛びます)

 

ですが、先述の駒崎氏はこれに対し非常に憤って言います。

「来年4月の期限を緩めるだけで」と言っていますが、来年4月に保育園がない、というのがどういう意味か、境氏(および反対派住民)は理解しているのでしょうか? 

なぜ駒崎氏は「問題の先送り」にこれほど怒るのでしょうか?

 

先ほどの境氏の 「「子育て」にきびしい国は、みんなが貧しくなる国だ」の記事の内容を思い出してください。

母親が保育園に子供を預けられないことはすなわち、失職の危機につながるのです。また、出産を機に会社を辞めてしまった女性が新たに就職先を見つけたとしても、子供を預けることができなければ、就職をあきらめざるを得ない場合だってあります。

当然、母親が社員に復帰できた場合に比べて格段にその家庭の所得が少なくなるわけで、子供に教育投資できる額も少なくなってしまいます。

こうなれば場合によっては子供が大きくなったときに大学進学をあきらめざるを得ない状況にだってなりえるわけで、待機児童問題はその子供の将来所得への影響すらある重大な問題なのです。

 

ある意味、 行政は待機児童を人質に取られている、のです。

 

「来年4月までの期限を延長すれば」と簡単に言うことは、行政側にとっては「久我山東原公園に建つ保育園で受け入れるはずだった定員約100名の待機児童とその母親の人生が大きく損なわれても良い」と言われるに等しい発言なのです。行政にとって「来年4月までの期限」というのはどうしても呑むことのできない「譲れない条件」というわけなのです。

 

この「譲れない条件」を理解することが、行政側と交渉するうえでのポイントになります。

 

次回に続きます。