市場問題プロジェクトチームの佐藤尚巳氏の発言に感動したので主旨を図解してみました
豊洲問題。
9月29日に市場問題プロジェクトチームが開かれました。
最初から話題が先にそれますが、この最初に自分が言いたい問題を書くのは橋下徹さんのTwitterでの文体を参考にしています。
これ後で自分が見返すときにとても良いんですよ。
さて市場問題プロジェクトチームですが、参加者の一人、佐藤尚巳専門員の発言が私の周囲で話題になりました。
佐藤尚巳氏はどんな人?
佐藤氏は国内、国外の大型建築物の何度も建築なさっている方です。ご自身のHPで経歴を見ると大変なエリートで、東大卒業後、ハーバード大学、国内の設計事務所に就職したのち、ケンブリッジ、ニューヨークの事務所を渡り歩き、現在は国内で仕事をなさっているようです。
この佐藤氏が今回の市場問題プロジェクトチームの初会合にて、豊洲新市場の建物の「地下の空間」について、わざわざ言及し、「東京都の技術系の役人の方の名誉にかけて(中略)正しい選択であった」と断言しました。
小池知事を筆頭にして東京都が何か悪いことをしたんじゃないか、手抜きがあったのではないかと疑っているような雰囲気の中、この市場問題プロジェクトチームという公式の場において専門委員が勇気をもってこのように発言したことに、私は素直に感動を覚えました。
この発言の一部始終は現在のところ、東京都のHPには公表されていないのですが、「目が覚めて思うこといろいろ」の共通一次世代(@megasametaro)さんが該当部分をテキストに書き起こしてくださっていました。
ちなみに会議の動画はすでにアップロードされています。
第1回市場問題プロジェクトチームテキスト・録画映像 | 東京都
地下空間について伝えたかったこと
豊洲の地下空間は独特のもの
まず佐藤氏は豊洲の地下の空間が通常の大型建築物とはちょっと異なる独特のものであることを伝えます。そしてこの空間について「非常に大きな誤解」があると言いました。
佐藤氏はなぜこの空間が生まれたのか、この空間を作ることによってどのような利点があったのかを佐藤氏は丹念に説明してくれています。それを大まかに分けると3つのメリットがあるようです。
1、コスト削減
まずこの空間についての大きな誤解の一つに「地下に大きな空間を作ったことによって、物凄い出費をしてるんじゃないか」があると佐藤委員は言います。
この工事、当初の予定では、地は全部を掘り返しそこに盛り土をすることになっていました。ところが、そのあと建物を建てるわけですからその分の穴をまた掘削しなくてはなりません。これは誰が考えても無駄です。
佐藤委員はこれを家の建築にたとえて
自分の住宅を作るときに1メートルの土盛りをして75センチ削って工事をするというような提案があった場合にバカじゃないかと、なんでそんな無駄なことをするんだと、言うに決まってますよね。
と表現しています。
第17回豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 説明資料 21ページより引用
都の技術職員はどうせ一度掘り返すのだから、最初から穴をあけて盛り土を積むという作戦でコスト削減をします。
上の図はそうして作り上げられた盛り土です。建物の入る部分だけが穴が開いているのが分かります。
佐藤委員は1㎥(リューベ)あたり1万円のコストがかかると仮定し、盛り土を盛るのに100億円、そこから穴をあけるのにさらに75億円の費用を削減したのだと言っています。これは仮定の数字ですが、どうやらこれでも過少に見積もった数値らしく、実際にはもっと費用がかかったのではなかという発言もしています。
2、保守メンテ性
通常の家屋でもそうですが、大型建築物でも地下には様々な配管類が通り、排水など建物の維持に必要な機能を果たしています。
通常の大型建築物ですと地下ピットと呼ばれる施設なのですが、この豊洲新市場はとても巨大な建物のため、もし通常と同様の地下ピットを作ると「250から300くらいの小部屋がザ~ッと並んでる(佐藤氏)」という状態になるそうです。
このような状態ですと仮に配管が老朽化などして破損したときに、破損部分を特定し修理することがほぼ不可能になります。照明もなく、換気用の設備もないため、作業員が250以上ある部屋の中から問題個所を見つけ出す前に酸欠になってしまうからです。
なんと動画がアップロードされてました。
ところが豊洲の地下は報道の通り大きな空間です。これですと、大きな空間になっているので行き来が容易です。破損個所の修理もすごく楽になります。
佐藤氏によれば配管類は20年から25年くらいで更新するようです。もしこれが地下ピットだと更新作業は絶望的ですが、大きな空間にしたことによって保守メンテ性が高まった、その分だけ建物を長く使えるようになったのだと佐藤氏は説きます。
3、地下水管理システム
そもそも、この地下空間が最初に発見されたときに地下に水が溜まっていたことが問題となりました。
建物が建築される前に、豊洲の地下水は環境基準レベルまで浄化する工事が行われました。地下水のモニタリング調査ではその工事が成功であったことを物語る数値が上がってきてます。
しかし、相手は目に見えない地下水です。万が一にも汚染された地下水が上昇しないよう、豊洲新市場では地下水をくみ上げるための地下水管理システムが併設されています。世界でも類を見ない設備です。
今回、この地下水管理システムが作動する前に何らかの事情によって地下水がこの地下空間にまで侵入してしまったわけですが、そもそも、これが地下ピットであったら気が付きもしなかっただろうと佐藤氏は言います。なぜならその部分まで、入っていくことができないからです。
これが今回、地下空間を設けたことによって地下水が侵入しているかどうかの確認ができるようになった、つまり地下ピットも地下水管理システムの一部としても有用な空間であると佐藤氏は指摘しています。
地下空間を作成した都の技術職員は優秀である
以上のように、地下空間というウルトラCを決めることにより、コスト削減、保守メンテ性、地下水管理の3つの利点が生まれたわけです。
このメリットをきちんとしかるべきタイミングで公表しなかった点、情報連絡がうまくいっていなかった点は確かに問題です。
しかし、地下空間を作成したことそのものは、責められるべき点ではなく、むしろ技術者として、あるいは公務員としての使命を十二分に果たしているのです。
地下空間は、非常に有用な空間であり、都の技術職員の英知、正しい判断であったのだと佐藤氏は主張したのです。
私の感想
今まで地下空間はさまざまな憶測を呼び、一体何のためにあるのかがよく分からない状態でした。もちろん、その有用性などは有識者によっていくらか指摘されていましたが、大型建築物を実際に手掛けた専門家が、公式の場所でその利点を説き、この作業を実施した職員を褒めたたえたことは素晴らしいことであると思います。
市場問題プロジェクトチームはまるで犯人捜しのようなそんな雰囲気のあまり見ていて気持ちの良くない会議でした。
確かに東京都にはいろいろと問題があります。
東京都政。一点不可解なのは、盛土があるとの答弁書を惰性で使っていたとのこと。役所では普通はあり得ない。議会答弁は役所内関係各所で調整する。知事が答弁するとなれば全庁的に調整する。これもきちんと行われていなかったとういのか。
— 橋下徹 (@t_ishin) 2016年10月1日
どうにもこの問題は橋下さんが正論を吐き続けているので引用が多くなってしまいますが、橋下さんの指摘する通り都の意思決定プロセスには問題がありそうです。
しかしそれはそれとして、きちんと職責を果たした職員について、まずはきちんと褒めたたえるのがリーダーの役割ではないでしょうか。
この点については、私は小池都知事に対してはっきりと批判をいたします。
現場の技術系の職員は、自らの使命を十二分に果たした"匠”であったのだ、とそう私は主張したいと思います。