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時事図解

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お母さんのための社会問題講座~築地移転の歴史的経緯について~

本ブログでは今まで主に豊洲新市場の科学除染について取り上げていました。さしあたって、大まかな科学除染については説明できたのではないかと思われます。

残るは地下水管理システムについての説明ですが、こちらはまだ本稼働を始めたばかりですので、これは後回しにしたいと思います。

移転するかどうかのポイント 

最近では、豊洲新市場の建築上の機能評価に対しては、ある程度、関係者の同意がえられてきています。また土壌汚染についても移転延期が無条件で決定されるような大規模な汚染はまず見つからないだろうと予想されます。

そこで今後は豊洲に移転するか、築地を再整備するかという二者択一が迫られてくると思うのですが、その参考として築地の再整備の歴史ついて確認をしてみます。

築地移転問題の歴史的経緯について

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大井市場への移転反対運動

発端は1985年(昭和60年)にさかのぼります。

このころ、すでに「地元消費市場の機能と築地市場の過密解消を図るため」に大井(現在の大田)市場を建設することが決まっていました。「第三次東京都卸売市場整備計画」

そこで都が築地の水産業界に対して大田市場への移転について統一見解を要求しましたが、全面移転、全面再整備と意見が割れます。

その後、昭和60年に築地本願寺で大井市場への機能分散に反対する総決起集会が開かれました。

ここから30年にわたってこの築地移転、再整備問題は続いていきます。注目したいのは、この頃からすでに水産業界は意見の統一に苦労していたというところです。

築地の現在地再整備工事が失敗

結局、水産業界が大井市場へ移転する計画はなくなり、東京都は築地で営業しながら卸売市場を再整備をするという工事計画を立てていきます。

しかし結論から言えば、この工事は約400億円ほどの費用をかけながらも失敗に終わります。その理由も一言でいえば、水産業界が一丸となれなかったためです。

工事失敗の理由ですが、大きく分けて3つの要素がありました。

工期の長期化

そもそも築地の再整備は市場の過密解消を図ることが目的でした。それゆえ場内で工事を行うための余分なスペースに割くことなど到底不可能です。

工事はローリング工事といって部分的に一部分を解体、建設、移転を繰り返しながら進めていく工事となりました。東京都は所有する建物を移転させるなどして種地(工事中の仮移転をする場所)を用意し工事を始めたのですが、やはり営業中に工事をしながらとなると交通事故が起きたり、駐車場が不足するなど営業に深刻な影響が出ました。

費用の増大

またこの時期はまだバブル全盛期からゆっくりと経済が減衰している時期であり、工事のための予算が当初計画よりも増大してしまいました。

平成2年に出た「築地市場再整備基本設計」では試算は総工費2380億円でしたが、再計算してみると約3400億円と約1000億円も増加しています。

業界調整の難航

築地市場内部の業界も必ずしも工事に協力的ではありませんでした。

やはり営業中に工事をするとなると、どうしても営業活動に影響します。それでもなんとか工事プランを立てたのですが、いざ工事が始まってみるとすぐに業界内部から反対意見が出てしまい、工事が止まってしまいました。

少々話が先走りしますが、次に紹介する晴海地区への仮移転するプランが持ち上がったとき東京都議会で「東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会小委員会」という会議が持たれました。

そこに参考人として招聘された築地市場青果連合事業協会副会長(当時)の泉氏はこの時期のことを振り返り、現在地再整備を「悪夢であった」と端的に言いました。業界内部の調整がいかに大変であったかを伺わせます。

比較的移転に協力的な青果部門ですらこのような証言が出るほどに調整は難航したのです。

豊洲への移転が持ち上がる

けっきょく、この築地現在地再整備の工事はうまくいきませんでした。

そこで業界の一部から臨海部への移転の話が出ます。平成10年に業界6団体が連名で「移転の可能性について調査・検討の要望書」を出しますが、都は「業界各団体の一致した意思の確認が必要」と回答。もはや東京都も築地の内紛に嫌気が差している様子で苦笑するしかありません。

結果は水産卸、水産買参、青果、関連の4団体は移転推進、一方で、水産仲卸、水産買出人の2団体が現在地再整備を希望します。ここでもやはり水産業界は意見が割れます。

なぜここまで意思が統一できないかは、推測になってしまうのですがやはり中小事業者が多く、経営体力が少ないこと(=移転するだけの費用捻出が難しい)、母数が多いことなどが意思統一を困難にさせていると思われます。元から意思統一が難しい状態にあるのです。

晴海仮移設プランが持ち上がる

それでも豊洲に移転するしかないとなんとか意見がまとまったのですが、今度は豊洲に土壌汚染があることが見つかります。

すると2009年、「築地移転反対」を最大公約にした民主党が都議会の第一党となり、再び築地の現在地再整備が検討されはじめます。しかし前回用意した種地はすでに使えなくなっています。

結果、晴海地区に築地の市場機能を仮移設し、その間に築地を再整備するというプランが出てきました。

ところが、このプランは計画倒れとなってしまいました。

その理由は前回同様、工期、費用、調整が難しかったからです。

先の読めない工期

晴海プランでは営業面でこそ工期への影響はありませんでしたが、別の問題から工期がどれくらいの長さになるのか見当が付けられませんでした。

というのも築地の下の土壌も相当に汚染されているだろうことは誰もが予想できたからです。元々築地には海軍の毒ガスなどの研究所があったり、原爆マグロが埋められたりしていました。加えて、江戸時代からあった土地ですから文化財などが掘り出されてしまうと工事を中断しなくてはなりません。そのため工期が具体的にどれくらいになるかは誰にも予想が付かなかったのです。

またアスベストが社会問題化した後の時期であり、古い建物である築地市場で工事をするとなると、大量のアスベストが飛散することは避けられません。工期がどの程度になるかはやってみないと分からない状態でした。

莫大すぎる仮移転施設の費用

仮に晴海に移転するとしても、移転先は何年も中央卸売市場として機能する建物を建設しなくてはなりません。普通に考えて1年以上使用する建物はそれは仮の施設ではないと思われます。(計画では仮移転は3年)つまり築地に市場を建設するのにもう一つ追加で市場を建設するわけで、どう考えても無駄な工事です。

この工事費用は当然、施設の運営費として跳ね返ってきます。加えて、仮移転となると2回も引っ越し作業をしなくてはならず、個々の業者にとっても無駄な費用がかかってしまいます。

地元との調整

仮に晴海へと移転するとなると、やはり地元との調整が難航することが予想されます。まず市場は早朝から入出荷のための車が集まってくるため、渋滞や騒音の元となります。

またもともと晴海に市場を建てることそのものも、当然、地権者には土地利用の計画があるはずなので建設のための調整にそれだけでも時間がかかります。

それに加えて、前回の現地再整備同様、築地市場内部での調整も加わるわけで、移転がすんなりと決まるわけがないのでした。

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築地の現地再整備は不可能とみてよい

この30年、築地再整備計画のうち現在地を再整備する計画は2度とん挫しています。長すぎる工期、莫大な移転費用、難しすぎる調整作業などがその理由です。同じ理由で2度も失敗をしているのです。

我々はこの歴史から学ばなければなりません。

現在、豊洲移転問題では賛成・反対に意見が割れていますがどのような立場にあるにせよ、現在地での再整備を主張する場合は誰もが納得する「工期、費用、調整」のプランを提出しなくてはなりません。

なぜなら築地移転問題がこれほど長期化したのは現在地再整備にこだわり続けたためだからです。

その間に多くの時間と費用とが無駄に消費されました。経営体力を失って身動きの取れなくなったり営業を停止せざるを得なくなった業者も数多く存在すると思われます。

さらに大きな問題として、現在の築地市場は食品を扱う場所としてはもはや不適格であり、現代の食品流通から大きく取り残されている旧弊な市場となってしまった点も無視できません。

最低でも衛生観念という見地からは間違いなく失格です。これも移転が早期に成立していれば起きなかった問題なのです。

ほぼ無理筋である現在地再整備を主張するのは、結果として築地の卸売場としての機能を減衰させることにもつながるのです。

<参考文献>

東京中央卸売市場「新市場Q&A なるほど納得!築地市場移転なぜ移転整備が必要なの?」

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/faq/01/

東京都中央卸売市場築地市場の移転・再整備に関する特別委員会小委員会の記録

https://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/subcommittee/

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本日もよい知見をありがとうございました。