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お母さんのための社会問題講座~豊洲の土壌汚染は本当に処理されているの?~ 後編

前編では主に汚染物質の対処法についてを解説いたしました。

汚染物質は大まかに4種類(ベンゼン類、油類、シアン化合物、重金属類)に分類でき、それぞれに適切な対処法を取れば汚染物質は浄化することができるという内容でした。

 

ところで豊洲の現場では、汚染物質はそれぞれ一か所に固まって存在するのではなく、いくつもの汚染物質がまだらに混在している状態です。

それらをどう処理していったらよいかが今回の内容になります。どうぞよろしくお願いします。

 

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 どんな処理方法を採用したのか?

まずは今回の土壌汚染対策に採用された3つの方法を解説します。汚染水の対策については次回にやる予定なので今回は触れません。

なお、写真は全て東京都中央卸売市場からの転載となります。

掘削微生物処理

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 汚染された土壌を掘り起こし、仮設テントのある場所に運び込み、畝(うね)を作ります。土中にいるベンゼンを分解する微生物を助けるため、餌(栄養塩)と空気を送り込みます。

ベンゼンは揮発しやすい性質があるので、空気を送り込むことによってベンゼンが空中へと飛散することがあります。そこで仮設テントに活性炭を設置し空中に広がったベンゼンを吸収します。

②中温加熱処理

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土壌が油によって汚染されている場合は【加熱】して油を気化して飛ばしてしまいます。洗濯で脂汚れを取るためにぬるま湯を使うのと発想は一緒です。

この方法だと、ベンゼンも気化して飛ばすことができるため同時に処理をすることが可能です。

③洗浄処理

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シアン化合物や重金属は水に溶ける性質があります。ですから土壌を洗ってしまえばこの2つの汚染物質を取り除くことが可能です。(重金属は溶けないというコメントをいただきましたが、おっちゃんこさんの解説の通りに水に溶けます)

そこでこれらで汚染されている土壌を、水ですすぎながら目の粗さの違う"ふるい”でふるい分けをし、石、砂利、砂、泥と分けていき汚染物質を洗い流していきます。

 

最終的に、砂と泥の状態になった泥水のうち、泥はセメント資材などとし、砂は界面活性剤(洗剤)と混ぜて洗い、汚染物質だけを浮かせて取り除きます。こうしてきれいな土だけが残るわけです。

お米を研いであくを捨てるという工程をイメージすると分かりやすいです。

掘削微生物処理と、中温加熱処理や洗浄処理との組み合わせ

実際にはこれら3つの処理方法を組み合わせて土壌を処理していきます。

土壌によって汚染されている物質はそれぞれ異なるので、ケースごとに確認していきます。ちょっとややこしいのでもう一度図を置いておきますね。

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汚染ケース1(ベンゼン類のみの場合)

 この場合は「掘削微生物処理」によって対応します。これだけで処理は終了です。

汚染ケース2&3(ベンゼン類、シアン化合物、重金属類の場合)

ベンゼンのほかにシアン化合物、重金属類によって土壌が汚染されている場合はベンゼンの濃度によって2パターンの対処法があります。

◆汚染ケース2

ベンゼンが環境基準の30倍より上だった場合(高濃度)は、まずベンゼンを「掘削微生物処理」によって分解します。その後、シアン化合物、重金属を洗い流すために洗浄処理に回します。

◆汚染ケース3

ベンゼンが環境基準の30倍以下の場合(低濃度)は、そのまま「洗浄処理」に回してしまいます。洗浄処理でもある程度のベンゼンを取り除くことは可能のようです。またこの場合でも洗浄処理施設はテントの中にあるため、気化したベンゼンを回収することが可能なので問題ありません。

汚染ケース5(ベンゼン類と油類の場合)

汚染ケース4を飛ばして先に5の解説です。

ベンゼンと油類によって土壌が汚染されている場合は「中温加熱処理」によって対応していきます。400℃~600℃の熱で加熱することでベンゼンも油も気化して飛んでしまうので残った土はきれいな状態となります。

汚染ケース4(ベンゼン類、油類、シアン化合物、重金属類の場合)

全パターンの中で一番最悪なケースですが、この場合は「中温加熱処理」でベンゼンと油を取り除き、次に「洗浄処理」によってシアン化合物と重金属を取り除きます。この場合でも時間と手間はかかりますがすべての物質を取り除くことが可能です。

動画でも確認できます

東京中央卸売市場のHPには、実際に行われた処理の様子が動画でアップロードされています。大変にわかりやすいのでぜひご覧ください。

汚染土壌処理の動画|東京都中央卸売市場

 

ここまでお読みなった方なら、以下のリーフレットもよくご理解いただけると思います。今回の図解はこのリーフレットの中の図のほぼ丸写しになってしまいました。

豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要」

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/outline/images/pamphlet.pdf

今回、たくさんの処理方法の名前や実際の工程などを紹介しましたが、これらをいちいち覚える必要はありません。

豊洲ではそれぞれの汚染土壌の特性に合わせ、場合によっては2段階の処理をして清浄な土壌に戻した、ということだけ抑えていただければ時に問題はないかと思います。とても入念で適切な対応だと思います。

 工事関係者はすごいという余談

今回の土壌の浄化は、 はっきりいって土をどこかの山から持ってきて入れ替える方がずっと楽だったんじゃないかと思うくらいの大工事です。

しかし土壌汚染をこのようにして解決できたということは今後、大きな財産となることは疑いようもなく、関係者の努力は称賛してしかるべき行為だと思います。

実際、ほぼその場で土を洗って入れ替えたようなもので、これはとてつもなくすごいことですよ。

豊洲の土壌ってどれくらい範囲で浄化されているの?

今回はこれで最後になります。

土壌を浄化するやり方は分かりましたが、実際、豊洲ではどれくらいの体積の土壌がこれらの方法で処理されたのでしょうか?

 

よく報道では地表から2メートルまで掘ったと言われていますが、厳密にはこれは間違いです。「荒川工事基準面から2メートル上まで掘った」という表現が正しく、今回の盛り土騒動のときに解説していくれた大貫剛さんはこのように言っています。 

 

盛り土問題の解説は次回に譲るとして、豊洲市場の土壌は大雑把に言って「海面より2m上」まで平らに掘り下げられ、そこからさらに「汚染土壌を掘りあげて処理を施して戻し」次にそこに地下水が上ってこないように砕石を敷き詰め、その後4,5mの安全な土壌を盛りなおしてあります。

 

 

 イメージが湧かないでしょうか?

 

いつも通り身近なイメージで考えましょう。 

2段の海苔弁当を想像してください。このお弁当は失敗作で、1段目のところどころにしか醤油がかかっていません。

そこで2段目のご飯を掘り起こし、醤油のかかっている部分を取り除き、空いた部分に白いご飯を詰め、さらに海苔をかぶせたあと2段目の白いご飯をかぶせました。

醤油はどこにもかかっていません。海苔弁当としては味も素っ気もない完全な失敗作に生まれ変わりました。

 

豊洲市場の周囲にある土壌は、この2段目の真っ白なご飯4.5mです。砕石が海苔です。建物の下にある土壌も醤油の残っていない真っ白なご飯です。どこにも醤油がかかっていないのに、どうして醤油が染み出てくるのでしょうか?

 

豊洲はどうあがいても安全」という妙な表現で今回の記事を締めさせていただきます。

 

今回の記事を書くにあたり、ひもたろう (@himotarou) | Twitterさんには化学知識の件でご意見をいただき大変に助かりました。ここに感謝を念を述べさせていただきます。

 

次回は汚染水と盛り土の解説をやる予定です。 

 

追記)使用している図は商用に利用しない限りはご自由にお使いになって構いません。出典は明記していただけるとありがたいです。

図解はそれを指示しながら話しているだけで原稿もなしにプレゼンテーションができてしまう面白ツールです。学校の先生などは朝礼の話題にぴったりですよ。

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