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築地移転を都議選の争点にするの、やめたほうがよくないですか?~都庁会見から築地移転を追ってみた~

築地移転問題が今年の夏の東京都議選の争点になるともっぱらの評判です。多少なりともこの問題に関わっている身としては、いまさら何を争点にするのだろうかという気持ちしかありません。

豊洲市場の問題は複数の論点が入り混じっており、一見複雑そうに見えますが、一つ一つの問題はほとんど決着がついているか、大方たいした問題も起きずに終了となることが予想される事柄ばかりだからです。

築地市場の問題点もようやく報道されるようになりましたし、そもそも築地を再整備をする財源もありません。これらの問題を大切な選挙の争点にしたところで得られるものがあまりに少ない。

 移転を延期した3+1の論点

 

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小池知事が築地移転延期を発表したのは8月31日の記者会見においてでした。この会見で小池知事は移転延期の理由を以下の3点としています。

・安全性への懸念

・巨額かつ不透明な費用の増大

・情報公開の不足

その後、様々な報道によって豊洲市場の問題は混迷を極めたように見えます。しかし知事の視点から見れば、3つの論点から始まり、後に1つ加わって、合計4つの論点があることが分かります。まずはその一つ一つを論点を時間軸で追って確認してみましょう。

安全性の問題

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・土壌問題

安全性の問題は主に「土壌に関する問題」と「耐震に関する問題」が論点となってきました。

まず土壌問題ですが、豊洲市場の延期の一番の理由として真っ先に挙げられたのが地下汚染水のモニタリングが完了していないという点でした。

本来、この調査は市場の安全性とはほとんど関係のないモニタリングであり、これを理由に延期を決定するのは論理的とは言えない判断でした。しかし当時は特に反発もなくすんなりと受け入れられました。今にして思えば、この頃の豊洲問題は比較的地味な話題で注目も少なかったと思われます。当時の本命はオリンピック問題でした。

小池知事はこの問題を検証するために、改めて「専門家会議」を招集します。

その後、地下の土壌汚染浄化が上手く行っていないのではないかと思わせる情報も出てきました。10月28日に一部のポイントで環境基準を上回る数値の汚染物質が検出されたこと、1月20日に異常な数値の上昇が観測されたことが知事の会見で報告されています。

・地下水の汚染は食の安全性に問題があるか

では地下水問題が深刻化しているのかというと、実はそうではありません。

この「異常な数値の上昇」が発表された第4回専門家会議において、すでに委員から安全性が確保されている発言があるのです。その趣旨をまとめると「地上と地下の問題については分けるべきで、かつ地上部分は安全」という発言を専門委員が述べています。そもそも地下水はほとんど食品に影響することはないのです。今後も移転が不可能になるような土壌問題が発生する可能性は低いことが十分に予想できます。

・耐震問題

もう一つ、安全性に関わる具体的な問題は、耐震性の問題を中心にした豊洲市場の建物に欠陥があるのではないかという指摘でした。

当時、一級建築士の高野一樹氏(HN名ペコちゃんdēmagōgos)が豊洲市場の耐震問題について疑問を呈しており、週刊誌などにも取り上げられて話題となっておりました。

それ以外にも建築エコノミストの森山高至氏がテレビを中心に豊洲市場の構造的な欠陥を指摘し続けており(その全てはデタラメでしたが)、豊洲市場の建物についての不安なイメージが広がっていました。

小池知事は市場問題プロジェクトチームを立ち上げ、この豊洲市場の建物としての安全性やその他の問題について再検討しはじめます。

第2回の市場問題プロジェクトチームでは先述の高野氏を招いて豊洲市場の設計を担当した日建建設との直接議論が行われました。この議論で日建建設の反論に対して高野氏が有効な反駁をすることができずに終わります。

最終的にはプロジェクトチームの一員であり日本建築構造技術者協会会長の森高英夫氏が日建の設計に問題ない旨を発言し、ひとまずはこの問題は収束しました。ちなみにその後も高野氏は豊洲市場の安全性について疑問視する立場を崩してはいません。

・耐震問題は知事自身で決着をつけている

今回の記事では高野氏と日建設計のどちらの主張が正しいのかという点については考慮しません。ひとまずの安全確認は済んだのであり、専門家による安全性の担保は確保された以上、それ以上の議論は専門家の間でなされればよい話です。

ただ、これを選挙の争点にするとおかしな話になるのです。

実はすでに12月28日に東京都の建築主事によって豊洲市場の検査済証が発行されているのです。建築主事の役割をごく単純に表現するならば「設計図通りに建築されているかどうかを確認すること」であり、建築物の安全の最終確認者といえます。都の建築主事による検査済証ですから、小池知事がこの検査に疑義を差し挟むのは自己矛盾です。また建築主事の信頼性そのものを問うならば、都の建築主事が関わった建物全てを再検査しなくてはいけないことになります。現実的にはありえない話です。

したがって耐震問題はすでに終わった事柄でなくてはならず、問題を蒸し返すのにはよほどの事件が発覚しなければ難しいと言わざるを得ません。

費用について

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小池知事は移転延期に費用の増大を挙げました。しかし費用の増大と移転延期に直接の因果関係はありません。当初からこの費用の問題は筋が悪い問題でした。

さらにこの問題はしばらくの間は進展もありませんでした。当時の報道などでは「都議会のドン」と呼ばれた内田茂都議が不正に関わっているのではないかなどとも報じられましたが、そのような不正は現在まで見つかっておりません。

そもそも豊洲市場の建築費用高騰の背景には東日本大震災が挙げられます。あの震災により建築資材が高騰は合理的に説明がついてしまうためか費用の増大の話題はしばらく絶えます。

変化があったのは9月23日の記者会見です。豊洲移転に関して石原慎太郎元都知事に直接ヒアリングする可能性について記者から質問がありました。小池知事はこれについて可能性を否定しませんでした。

ここから費用問題は、用地買収に絡んで石原氏が何かを隠しているのではないかというようなニュアンスを伺わせるようになります。もっとも、その後の石原氏との文書のやり取りなども新しい情報は出てこず、調査ははかばかしくありませんでした。

・訴訟代理人の見直しは悪手

翌年1月20日、小池知事は石原氏に対して市民団体から挙げられていた「豊洲市場用地売買契約に係る住民訴訟」の東京都側の訴訟代理人の見直しを行うという発表をします。

しかし、これで何か新しい事実が判明するのかといえば甚だ疑問です。

すでに石原氏は何でも話すと応戦の構えを見せており、当時の右腕だった浜渦氏もテレビの生放送で疑惑とされてきた問題を洗いざらい話しています。彼らにとって豊洲市場の問題は痛くもない腹を探られているだけという雰囲気なのです。したがって今後これが汚職事件につながる可能性は極めて薄いと言わざるを得ません。

情報公開について

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情報公開も当初の期待とは違った流れになりました。

そもそも豊洲の資料は読みきれないほど膨大な量が公開されています。小池知事もある程度このことには言及しており、むしろ読みにくいことのほうが問題でした。その後も豊洲市場の問題について隠された資料といった類の資料は発表されていません。

変化があったのは9月10日に小池知事が緊急記者会見を開いたときです。「都庁の説明ではあったはずの盛り土がなかったこと」が大変な問題として公表されました。

ここから情報公開は「盛り土をしないことを決めたのは誰か」という問題へとシフトしていきます。小池知事は都庁の職員に自己調査を命じ、その結果に不満だったため、さらに厳しい調査を行い、最終的には当時の市場長を含む職員を懲戒処分にします。その処分の是非はともかくとして、それ以降、情報公開について新たな発表はなされなくなりました。

情報公開という論点はほぼ忘れ去られてしまっているのが現状です。

 安心の問題

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 一方で、小池知事の発言から火種が大きくなってしまった問題もあります。安心の問題です。

豊洲市場の安全性は、その後の専門家会議や市場問題プロジェクトチームによって証明されていきます。小池知事は何度か「科学的な判断に基づいて」という趣旨の発言をするのですが、一方で安全だけれども安心ではないという趣旨の発言もしています。

まず最初にこの問題が確認できるのは、9月23日の記者の質問に対する答えからです。当時、Twitter上で橋下徹氏が地下水モニタリングへの対応について小池知事の行動に疑問を投げかけておりました。そのことを問う記者に対し、小池知事はこのように回答しています。

地下水を飲むわけではないという話ですけれども、これは総合的な話でございまして、地下水の汚染ということがどれほど生活者にとって影響を与えるのか、食の安全に対して疑問を抱かせるのかという、そのような感性ということが必要なのではないか

 「感性」という言葉はそれぞれの内心にしか存在せず、基準もないあやふやな尺度です。

むろん知事の発言の前からこのような安心の問題がなかったわけではありません。しかし知事はこの問題の当事者であり、安全性を証明し、都民に対して安心を与えなくてはならない責任者です。その知事が「感性」という非科学的な発言をしてしまったことで、豊洲市場に対しての際限のない安心への要求を述べることが公的に認められてしまったのです。これは失言と言わざるを得ません。

 11月18日には知事により豊洲問題の今後の全体の流れ(スキーム)の発表があり、その際に知事は「豊洲問題は大きな課題」とまで発言するに至りました。これもおかしな発言です。

築地移転は本来実務的な作業であり、科学的に安全性を確認できればそれで事足りる問題です。都政のスケールからすれば単純な部類に属す問題でしょう。「大きな課題」という表現に至るまで大きくしてしまったのは、「安心の問題」を容認し、リスクコントロールを怠った知事に原因を求めるべきでしょう。

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豊洲問題では当初の3つの論点はほぼ終了地点が見えかけています。

地下水モニタリングは地上の安全には影響がなく、費用に関しても不正が見つかる気配もありません。情報公開はほぼ手付かずですが関係者の誰も問題視していません。

しかし一方で、新たに追加された「安心」という論点では、豊洲市場に対する安心は日々損なわれ続けており収束する気配がありません。

「最初の論点は整理されたが、安心の問題が発生している」というのが、知事を会見をつぶさに追った筆者の感想となります。

小池都知事豊洲市場を争点にすべきではない

以上、論点を整理をしてみました。

それではこの論点を元に、築地移転問題を都議選にするということはどういうことかも図解しましょう。

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まず、これら4つの論点ですが、「市場に関わる問題(市場イシュー)」と、「都政に関わる問題(都政イシュー)」に分けることができます。

このうち本来移転延期の判断に関わるのは市場イシューのみです。都政イシューは判断材料としてはふさわしくありません。たとえば仮に石原氏が豊洲の用地取得に何らかの不正を働いていたとしても、それを理由に延期をするというのは筋が合いません。それぞれ別個に処理すべき事案です。

小池知事はこの両方を移転延期の理由に挙げました。この時点で、小池知事の判断ミスは始まっているのです。またそれぞれの論点でも、小池知事は細かく突っ込まれると困ることが多い。

安全性について

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土壌問題については当初知事は科学的に判断すると発言しています。これはまったく正しい態度です。そして専門家会議で「地上部分は安全」という発言も出ています。

耐震性についても、建築主事による検査済証が発行されています。これは知事自らが安全性を保証しているようなものであり、よほど具体的な証拠でも提出されない限り、これを覆すことは不可能です。

そもそも安全性を都議選の争点にすることは不可能です。

安心について

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一方で、知事の「感性」という言葉の誤った使用から始まってしまった安心の問題はどうでしょうか。これも小池知事が選挙の争点に利用することは単なる責任放棄でしかありません。

そもそも知事の役割は不安を煽ることではなく、都民に対して安心してもらえるようにリスクコミュニケーションをすることです。

ところが、知事の公式発言を振り返ると、安心を与えるような発言は見えず、リスコミ不足は明白です。これは知事の不作為ですから知事与党がこれを主張することはできません。また野党側にしても安全性が保証された都の財産をへの信頼を損なうような言説を述べるのはふさわしい選挙活動とはいえないでしょう。

情報公開について

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それでは情報公開についてはどうでしょうか。確かに一連の盛り土問題で、都庁内の意思決定のまずさを発見したのは小池知事の功績です。しかし、それがどのように改善されたのかは未だに判明しません。

たとえば、小池都政にたびたびコメントする橋下徹氏は「大阪では最高意思決定機関を整備し、意思決定プロセスを書面化・公開することにした」と大阪時代の改革を紹介しています。橋本氏のやり方が絶対に正しいとは限りませんが、では小池知事はこれをどのように変えたのか、あるいは変えようとしているのかが現在のところ見えてきていません。

そもそも都庁職員を掌握し、効率的に作業させることは知事の基本的な職分です。そして豊洲問題に関しては、情報公開の質はともかく量ならば十二分に行われています。一体何を選挙の争点にするというのでしょうか。

費用について

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そもそも豊洲の建設費用高騰に対して、小池都政は不正を発見することができていません。高齢の石原氏に詳細を尋ねるよりも、都庁内に揃っているはずの資料から探し当てるほうがよほど確実です。

それよりも問題なのが石原氏への行政訴訟に対する対応で、小池知事は訴訟代理人の見直しを行うという発表を行った点が非常に問題があります。

「行政の連続性」という言葉があります。首長が変わっても行政の方針を一からやり直したりせず、過去の方針を引き継いでいかなくてはならないというのは我々の社会の基本的なルールです。

もし過去に誤りがあったとしても、行政の首長ならばまずは非を認め、改めて手続きを踏んで変更をしなくてはならないはずです。これは一般的な会社組織でも同様でしょう。

過去に汚点があるならば知事自ら調査に乗り出し、事実を説明し、知事として都民に謝罪することがなすべき順序です。この点を選挙の争点にするということは、行政の長が実質不在であることを自ら認めるような悪手だと私は思います。

問題はこれらの論点が移転延期の根拠であるということ

以上の4つの論点が豊洲移転延期の判断の根拠です。

そして真に議論されるべきは、小池知事の移転延期の判断が妥当であったかであるべきです。

なぜならこの移転延期の判断によってすでに3つの悪影響が出ているからです。

 

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1、豊洲への風評被害

 豊洲市場の土壌汚染疑惑は豊洲全体に広がりました。

2、業者への補償問題

 移転を延期したことにより業者へ本来払わなくてもよい補償金が発生しました。

3、環状2号線問題

 オリンピック開催までに環状2号線が開通せず、選手村の建設を始めとした多くの事業に影響を与えました。

 

これらの問題は、まぎれもなく小池知事の移転延期の判断によってもたらされたものです。これほどの悪影響を都民に課した知事の判断は正しかったのでしょうか。

都議選で築地移転問題を争点とするならば、都民はこう問われるのです。

小池知事の判断は正しかったのか、小池知事の誤認と甘い見通しによって都政に悪影響を及ぼしただけではなかったのかと。

 

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そもそも、築地市場は中央卸売市場であり、今は観光客で賑わっているとはいえ本来は単なる業務施設です。都民の将来を占うような存在ではありません。

他にも都議選には、オリンピック問題、待機児童対策、高齢化問題など、東京都にとってより重要な課題が様々に存在するわけで、本来安全なはずの市場に議論のコストをかけること自体ナンセンスでしょう。

知事のためにもならず、都議のためにもならず、なにより都民のためにならない争点を選挙に利用するのは誰にとっても不幸な結果を生むような気がしてなりません。

築地移転を都議選の争点にするの、やめたほうがよくないですか?

 

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