大山のぶ代さんの認知症介護から学ぼう。認知症介護を専門家に頼る意味とは?
先日、声優の大山のぶ代さんの老人ホームに入所されていたことがニュースになりました。
www.asahi.com 2016年6月6日朝日デジタルより
子供のころ七夕飾りに「ドラえもんに来てほしい」と書いた私にとって、ドラえもんの声といえば大山さんであり、このニュースを見たときには時の流れの残酷さに寂寥感を覚えました。
入所を発表したのは大山のぶ代さんの夫である俳優の砂川啓介さんです。認知症の人と家族の会の講演会で発表されたそうで、また砂川さんは大山さんの介護体験を綴った手記も出版されています。
それで私も気になって、この手記を読んでみることにしました。
「娘になった妻、のぶ代へ 大山のぶ代「認知症」介護日記」を読んで
この本は大山のぶ代さんの夫である砂川啓介さんの視点から、大山さんとの出会い、結婚、流産、そして脳梗塞を経てアルツハイマー型認知症が発症し、ついに大山さんの認知症を公表するに至るまでの家庭が描かれています。
愛する妻が認知症になり、満足なコミュニケーションもとれなくなっていくのを嘆く様子は切々と心を打ちます。
しかし大山さんの認知症介護の苦悩を綴った部分では、砂川さんは認知症患者への対応としては非常に不適切なことを繰り返しており、それゆえに苦労をしている様子が心苦しかったです。実は私には知人に認知症介護の関係者がおり、このことについては多少なりとも知識があったりします。
そこで砂川さんの介護のどこがまずかったのかを解説しつつ、身近に認知症患者がいる場合に専門家に助けを求めることの重要性について書いていきたいと思います。
ただ、砂川さんを非難する意図はありません。自らの介護の過ちに気づいているからこそ、こうして手記を発表され、また講演会などで啓蒙活動をなっているわけです。
佐川さんのしてしまったミスも、認知症介護を行う人にありがちが行為ですので、この記事の主目的は佐川さんを非難することではなく、不適切な認知症介護の典型例として取り上げさせていただくものだとあらかじめ断っておきます。
前置きとして
2025年には老人の5人に1人が認知症患者になる、という推計が厚生省より発表されています。これは一組の夫婦がいれば、その両親の誰か、あるいは配偶者のうちの1人は必ず認知症になる確率です。つまり日本中のほとんどの人が、人生のある時点で認知症と関わらなければならない日がくる、ということです。
そういう意味で、砂川さんの事例は、だれにとっても他人事ではないのです。
大山さんの認知症発覚。その時の夫の選択は
脳梗塞からのアルツハイマー型認知症発症
2008年4月、大山さんは脳梗塞で倒れ緊急入院をします。一命をとりとめたものの、声優の仕事ができないほどの危険な状態に陥りました。
その後リハビリの成果も現れ、アニメ『ダンガンロンパ』で声優業に復帰します。しかし2012年、その後も通院していた病院で医師からアルツハイマー型認知症だと診断されました。
砂川さんによれば、脳梗塞の退院後から大山さんにはすでに認知症の兆しがあったそうで、愛煙家だったのにタバコの存在を忘れてしまっていたり、料理中に鍋を空焚きしているのに気づかなかったりと、さまざまな兆候が現れていました。
砂川さんの不安と不信
芸能人としての不安
言うまでもないことですが、大山のぶ代さんは日本を代表するアニメ『ドラえもん』のドラえもん役として有名でした。また砂川さん自身も『うたのえほん(後のおかあさんといっしょ)』の初代たいそうのおにいさんとしてブレイク、『お昼のワイドショー』で6年間司会を務めるなど、夫婦そろっての有名人でした。
そのためか、大山さんの認知症を知ったとき砂川さんが考えたことは「ドラえもんのイメージを壊してはいけない」ということでした。そこで砂川さんは大山さんの認知症を秘密にすることを決意します。
介護業者への不信
また、認知症ですっかり変わってしまった大山さんを施設に預けることも断念します。その理由は『ドラえもん』の声優として有名な大山さんが入所したら「見せ物にされるかもしれない」という不安からでした。
それではホームヘルパーを頼むかというと、それもできませんでした。
ヘルパーを頼むためには「認定調査」という「どの程度の介護支援が必要なのか」という調査があるのですが、「見ず知らずの人が突然家に来たら、ペコ(大山さんの愛称)はパニックを起こしてしまわないだろうか」「派遣してもらうヘルパーさんとそりが合わない可能性だってある」という理由で、砂川さんはホームヘルパーを使うことさえも拒否してしまったのです。
専門家を拒否した結果「苦しい介護」が始まる
砂川さんの心理的な負担と肉体的な負担
大山さんの認知症を隠し一人で介護することにした砂川さんですが、それによって途方もないストレスに襲われます。
大山さんの認知症を相談する相手もなく、また大山さんの状態を問われても本当のことが言えないというストレスです。どんなに介護が辛くても、誰にも打ち明けられないというのはとても苦しいことでしょう。どんなに苦しんでも、労ってくれる人すらいないのです。
そもそも介護そのものが重労働です。
このときすでに砂川さんも80歳に手が届くかという年齢でした。そのような年齢の人が、排泄のケアをしたり、お風呂に入れるといった重労働を毎日行うのです。負担にならないはずがありません。ちなみにですがこういった老人が老人を介護する老老介護はすでに社会問題となっています。
大山さんの介護は、公私にわたって付き合いのあった大山さんのマネージャーと、長い付き合いのあるお手伝いさんが手伝ってくれたそうです。ですが主な介護者は砂川さん一人であることに変わりはありません。大山さんには「徘徊」「妄想」といった認知症特有の症状が現出しており、見守りに24時間気が抜けない状態でした。
その結果、砂川さんは追い詰められた
献身的な介護にもかかわらず、その後も大山さんの認知症は改善の兆しを見せず、砂川さんは疲労困憊していきます。
お酒の量が増え、まるで児童虐待をしてしまう母親のような追い詰められた心理状態に陥ったり、ニュースで認知症の介護者が心中を図ったと聞いてはっとさせられたりと、もはやどうにもならない状態になってしまいました。
この状況を打破したのは、砂川さんの友人で介護問題に詳しい毒蝮三太夫さんでした。
ところで砂川さんの介護は何がいけなかったのか?
大山さんの認知症が公開される話の前に、砂川さんの介護の何がいけなかったかを整理します。
不安から大山さんの認知症を隠そうとしたこと
芸能人だから、イメージが大事だからという風に砂川さんは当時のことを語っています。しかしこれは言い訳だと私は考えます。
要するにこれは「妻が認知症であることを認められなかった」ということなのです。
実際にこういう人は多いそうで、認知症だと認められないばかりに医師に診断してもらうことが遅れたり、ひどいときには「身内が認知症なのは恥だ」と認知症患者を家に閉じ込めてしまう例もあるそうです。
現在の医学では、一度認知症になった人が完治して元の状態に戻ることはないとされています。これは認知症が脳の機能障害だからです。
しかし、薬で認知症の進行を軽減したり、脳に刺激を与えることによって認知症の症状が一部改善することはあります。
ですから認知症患者には、できるだけ早期に、適切な対応をとることがとても大切なのです。
砂川さんの選択の結果として、大山さんは友人知人との関係が断たれ、疲れ果ててイライラしている介護者(砂川さん)と家に二人きりという、認知症患者にとってよくない環境ができてしまいました。
認知症の特徴として、「すぐ近くの記憶は失われても、遠い昔の記憶は残っている。また本人にとって大切な記憶ほど忘れない」というものがあげられます。家族のことさえ忘れていても、仕事のことだけははっきりと覚えていたという認知症患者もいます。その人にとっては仕事こそが生きがいだったのでしょう。
こうした「残っている記憶」を刺激することで、認知症患者の脳の活動が活発になり認知症の症状の改善が期待できます。逆に「刺激のない生活」は脳の活動を低下させ認知症は悪化していきます。
大山さんのことを秘密にしようとした選択は間違いだったのです。
介護事業者を信じることができなかった。
施設に預けようとしたとき、大山さんが「見せ物になる」といって拒否したのは、芸能人として過去にそういう不快な経験をしたからかもしれません。
ですが介護事業者はプロです。患者を特別扱いしないこと、プライバシーを守ることなど、そのあたりの倫理問題は教育課程でしっかりとした教育を受けます。
特に、大山さん砂川さん夫妻は資産的にも余裕があったようですから、高額であっても管理の行き届いた施設を選んで入居することもできたはずです。
また認定調査時に、突然知らない人が来て大山さんが混乱しないだろうかという不安もプロを信用していなかった証拠です。もし認定調査のたびに認知症患者が混乱を起こすようならば大問題となっているはずです。
厳しいことを言ってしまいますが、砂川さんは介護事業者に対して偏見を持っていたと言わざるを得ないです。それだけならまだしも、そういった不安を誰にも相談していなかったのではないでしょうか。手記にはそうした形跡はありません。
たとえば認知症を診断した医師に相談したり、実際に施設を見学したり、あるいは介護保険の窓口になってくれる「地域包括支援センター」に連絡すれば、不安は解消されたでしょう。
www.mhlw.go.jp(厚生労働省HPより。地域包括支援センター一覧へのリンクがあります)
これは一般論ですが「自分の考えに固執する、相談できない」という行動は、高齢の介護者にありがちな現象のようです。
ですが、家族とはいえ介護の素人と専門教育を受けた他者。
どちらがより適切に介護ができるかは冷静になって考えてみればすぐにわかるはずです。
砂川さんはこのとき冷静になれなかったのです。プロに頼らず一人で介護した結果、砂川さんは追い詰められてしまいました。
毒蝮三太夫さんの勧めで大山さんの認知症を公開
追い詰められた砂川さんですが、介護を助けてもらっていた一人(マネージャー、あるいはお手伝いさんのどちらかは不明)から毒蝮三太夫さんに相談するように提案されたようです。砂川さんと毒蝮さんは長年の友人でした。
毒蝮三太夫さんは「巣鴨のスター」と呼ばれるほど、お年寄りに人気のある方で、ある番組で介護のコーナーを担当するなど、介護問題にとても詳しい方でした。
相談を受けた毒蝮さんですが、実は薄々、大山さんの認知症を感づいていたようで、即座にこのようにアドバイスをします。
「一人で全部抱え込んでいたら、お前のほうが参っちゃうって……。啓介が先に逝っちゃったら、ペコはどうなるんだよ」
砂川さんは迷った末、大山さんの認知症を公表することを決意します。
公表後、どのような変化があったか
砂川さんがラジオ番組で大山さんの認知症を公表すると、リスナーから励ましのファックスが続々と届いたそうです。砂川さんは妻の認知症を勝手に公表することに対して批判を覚悟していたそうですが、非難の声は一つもありませんでした。
大山さんの認知症を公表したことで、砂川さんは肩の荷が下り、余裕が生まれたようです。手記の中で、認知症患者に対して笑顔でいることの重要性を語るなど、手記の後半での大山さんへの対応は、依然とは様変わりしています。
また、大山さんの認知症を公表したことがきっかけで、それまで交流が途絶えていた大山さんの友人知人からの連絡が届きます。
特に、テレビ黎明期に声優として「ブーフーウー」で共演していた親友の黒柳徹子さんとの交流再開は多く語られており、一緒に会食した様子も記されています。
そこでは大山さんはとてもしっかりしていて、砂川さんが別人と思うほど変調していたようです。
わずかですが、声優の仕事も再開しています。
「ダンガンロンパ」の舞台化にともない、大山さんは収録に参加します。収録直後は疲れていたものの、砂川さんの見立てではその後、普段よりも顔色が良かった様子です。
夫、友人、仕事、どれも大山さんが大切にしていたもの
繰り返しますが、認知症患者の記憶は、失われるものとそうでないものがあります。本人にとって大切だったもの、楽しかった思い出は残ることが多く、その記憶を刺激することで、生活に張りが生まれ、認知症が改善される可能性も高くなります。
手記を読めば、大山さんにとって、夫である砂川さん、友人たち、そして生涯を掛けた声優の仕事がどれほど大切だったのかがよく分かります。
砂川さんは最初、意図的にではないにしろ、これらの「大山さんの大切なもの」を遠ざけてしまっていました。結果として大山さんの精神状態は不安定となり、それが原因とは限りませんが、大山さんは幻覚を見てしまうほど認知症を悪化させてしまいました。幻覚は認知症の中でも周辺症状といって、本人が安定しているときには出づらい症状の一つです。
もし、あの時、介護問題に詳しい毒蝮三太夫さんの助言がなければ、大山さんと佐川さんの介護生活は破たんしていたかもしれません。
ここから分かるように、認知症介護は一人で抱え込んではいけないのです。
きちんとした知識のある専門家にちゃんと相談すること、それが重要なのです。
介護の専門家が提供するものは「時間」「知識」「知恵」の3つがある。
私は、介護の専門家が提供するサービスには3つの要素があると思っています。
それは「時間」「知識」「知恵」です。
介護者がリフレッシュするための時間
ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイなど、形態はさまざまですが、介護保険を利用した介護サービスは介護者に代わって認知症患者の面倒を見てくれるという点では共通しています。
認知症患者の世話から解放された介護者は、その間に家事をしたり、外出したりして休息を取ることができます。介護事業者は介護者にリフレッシュの時間を与えてくれるのです。
毒蝮さんの言葉にもあるように、介護者が倒れてしまっては介護される側も不幸になるだけですし、そうでなくても介護者が疲れてイライラしていると認知症患者は不安になります。その不安が認知症の問題行動へとつながっていきます。
介護する側が肉体的にも精神的にも健康であること、これが認知症介護にはとても大切なのです。
介護に必要な知識
また介護の専門家は介護者に「知識」を授けてくれます。
分かりやすい例でいえば、関節が固まりやすい認知症患者のためのリハビリ体操などがそれです。ケースワーカーは介護保険の使い方を教えてくれますし、病院では認知症の進行を食い止める薬について説明を受けるでしょう。
「どうすれば認知症の進行が食い止められるか、もしくは改善されるのか」という知識も、ほとんどの人が認知症介護を始めるまでは知らないはずです。
砂川さんの例でいえば、専門家と疎遠だったばかりに大山さんを孤立させてしまったことがその例に当たるでしょう。
こうした知識は一般人ではなじみが薄く、また一度に把握することも困難です。
専門家にしっかりと継続的に相談することが大切なのです。
認知症患者の問題行動に対処する「知恵」
この「知恵」の部分に関しては、介護サービスを提供する側もされる側もあまり意識してはいないのでしょうか。
これが実は一番重要なのではないかと私は考えています。
ちょっと考えてみてください。
たとえば、コントなどでお馴染みの「ご飯はまだか?」という認知症患者の問いかけにあなたはどう対処しますか?
「おじいちゃん、さっき食べたばかりでしょ!」
と叱るのはコントとしては面白い対応かもしれませんが、実際には悪い例です。認知症患者を否定することは相手の不安を生み、症状の悪化に結びつきます。
この場合の正解の一例は
「今から作るから少し待っていてなどと言って、お茶などを出して気を紛らわせる」
です。
認知症患者は近い記憶が失われがちです。「ご飯はまだか?」と尋ねてくるのは「食事をしたという記憶」がない不安のためで空腹だからとは限らないのです。
そこで相手を否定せず、お茶などで気を紛らわせていると認知症患者は安心し、そのうちに「ごはんはまだか」と言ったことを忘れてしまうのです。
この場合は空腹ではないので、不安が解消されれば「ご飯を食べたかどうか」さえ気になら無くなれば、問題がないためです。(あくまで一例です。別の理由から「ご飯はまだか?」と聞くこともあります)
認知症患者が問題行動を起こす理由は、すべて不安からきています。
脳の機能障害のため、記憶の整合性が取れなかったり、自分の居場所がとっさに分からなくなったりすると認知症患者は混乱し、その不安を解消するために問題行動を起こすのです。
たとえ介護者から見れば不自然でおかしな行動も、本人にとっては、不安を解消するための整合性のとれた意味のある行動なのです。
「お金が盗まれた」といって大騒ぎする。
「(家に居るのに)家に帰りたい」と徘徊を始める。
「死んだはずの誰々に会った」という幻覚を見る。
こうした認知症患者特有の問題行動への難しい対応は、認知症を正しく理解し、かつ実際の現場で働いている人間でないとなかなか気づくことができません。
認知症患者は不安が解消されれば、問題行動を起こさなくなります。それだけ介護が楽になるのです。
こうしたテクニックはなかなか本などには書かれません。なぜなら認知症患者ごとに原因や行動が異なり普遍化しづらいからです。
介護の現場の人間だからこそ分かる「知恵」を教えてもらえることが、専門家を頼る一番のメリットだと私は考えます。
それでは、どこの誰に相談すれば良いの?
「時間」や「知識」については、それぞれ介護保険を利用していれば提供されるサービスですので、ここでは「知恵」、つまり認知症患者への具体的な対応を教えてくれる場所を紹介します。
認知症の人と家族の会
認知症の人とその家族を支援する組織です。電話相談を受け付けており、認知症患者の対応で困っている人にとって一番相談しやすい場所ではないかと思います。
また講演会などの啓もう活動も活発で、今回取り上げた砂川さんもこの組織の主催する講演会で講演を行っています。
認知症ケア専門士
一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する認知症ケアの専門家です。
資格の受験条件が「認知症ケアに関する施設、団体、機関等において、過去10年間の間に3年以上の認知症ケアの実務経験を有する者」となっており、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)、ヘルパーなど実務に携わっている方々が多く取得しています。
特別養護老人ホーム、デイサービスなどの施設に勤めていたり、ケアマネージャーとして活動していたりするので、認知症介護をしていればどこかで関わる機会があるはずです。
認知症認定看護師
認定看護師制度は、特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護現場における看護ケアの広がりと質の向上をはかることを目的としています。(公益社団法人日本看護協会HPより)
認定看護師とは、一言でいえば「特定の分野について専門性を持った看護師」のことです。
平成7年に「救急看護」「皮膚・排泄ケア」の分野から始まり、現在は21分野まで広がっています。そしてその中に「認知症」分野も含まれています。
認知症認定看護師の特徴は、なんといって「看護師」であることです。
「認知症の知識」のほかに「医療知識」も持っているわけで、当然、認知症を医学的な意味で熟知しています。また認定看護師は現場でのリーダーになることを求められて誕生した資格なので、日々、多くの認知症患者の介護に携わっています。
知識、経験のともに不足がない、認知症介護のエキスパートです。特に認知症のほかに病気を抱えている場合はとても頼りになる相談相手でしょう。
また認知症認定看護師のいる病院は認知症ケアに力を入れている病院といえますので、認知症患者を入院させなければならない時の有力な判断材料になります。
認定看護師には、認知症患者本人や、その周囲の「頑固な」人々を説得しやすいという利点もあります。
たとえば今回の大山のぶ代さんの介護の件で、夫である砂川さんは、介護業者を信用することができませんでした。しかし、これが仮に「デイケアを利用する」ではなく「入院する」のであれば、すんなりと大山さんを預けることができたのではないでしょうか。
やはり日本人の病院に対する信頼は絶大です。
ことに高齢の人にありがちなことですが、「医師」や「病院」といった「権威」には素直に従うことができるという事例がけっこうあったりするのです。
これはなにも介護する側だけではなく介護される側も同じで、家族からオムツを履くことを言われても拒否するけれども、「医者」や「看護師」といった白衣を着ている人の指示は素直に受け入れることができたりといった事例もあります。
問題は、認知症認定看護師はまだ数が少ないということです。
2016年現在、認知症の認定看護師数は651人。宮崎県を除く46都道府県に認定看護師が1人はいるという状況になったばかりです。
そういう意味ではいきなり個別に相談に乗ってもらうのは難しいかもしれません。
ですが認知症認定看護師は現場での実務のほかに各地の市町村でセミナーを開いたり、病院のイベントで地域の人々とコミュニケーションを取ったりしているので、一度、認定看護師のいる病院に問い合わせをしてみるのもいいかもしれません。
まとめ
砂川さんの手記の最後に、余裕を取り戻した砂川さんと大山さんの仲睦まじい現在の様子が載っています。余裕を取り戻した砂川さんによって、大山さんは認知症を抱えながらも幸せに暮らしている様子でした。
認知症の介護は突然はじまります。しかしそのことに備えている人は少ないでしょう。
そのため、いざというときにパニックに陥り、良くない方向へ向かってしまうこともあります。その結果、介護者が追い詰められてしまうこともあります。
そもそも介護というのは重労働です。そのうえに認知症特有の問題行動が加わると、介護側はにっちもさっちもいかなくなります。
「正しい知識と対応」を知っていれば、問題行動も収まり、介護される側も穏やかに楽しく暮らしていけますし、そうすれば介護する側もずっと楽になります。
「正しい知識と対応」については、今では研究が進み、それに対応する社会資本、そしてケアの専門家も誕生しています。
「一人で全部抱え込んでいたら、お前のほうが参っちゃうって……。啓介が先に逝っちゃったら、ペコはどうなるんだよ」
毒蝮三太夫さんのこの言葉は介護をするすべての人に通じる言葉です。
現在、認知症介護を助けてくれる人たちはたくさんいます。
介護する側、介護する側、ともに楽しく暮らせるよういざというときのための相談先を知っておくことは、今後ますます高齢化が加速する我が国において重要なことだと私は考えます。
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